「野生児とは?」
こう質問された場合に、多くの方が「逞しくワイルドな子供」と答える方が多いかも知れませんね。
しかし、実際には野生児とは「人間の社会から離れた環境で成長した子供」のことを指して使われるのです。
その中でもそこに至る理由により分類はあるのですが、今回はその中の一つとされる「野生動物に育てられた人間」についてご紹介します。
題して「【悲しい実話】野生動物に育てられた人間一覧とその後」です。
- 「その例は世界中にはどれくらい存在するのか?」
- 「人間を育てた動物とは?」
- 「無事に社会復帰出来たのか?」
などなど気になる疑問にもお答えしてまいります。
目次
野生児
今回の主題は「野生動物に育てられた人間」となるのですが、その前にその大きな括りとなる「野生児(feral child)」につて少しお話をしておきましょう。
前述のように野生児とは「人間社会から離れた環境で成長した子供」のことで大きく分けると次の3つに分類することが出来ます。
動物に育てられた子供
今回の主題がこちらですね。
動物が、人間の赤ちゃんをさらったり置き去りにされた赤ちゃんを拾ったりして、その動物がそのまま人間の赤ちゃんを育てると言うケースです。
しかし、次項の「孤立してしまった子供」が動物と行動を共にしたケースもあることから、線引きはややあいまいな部分もあります。
特にオオカミにより育てられることが多く、「wolf child(狼少年、狼少女、狼っ子)」と呼ばれています。
オオカミ以外にも「犬」や「サル」などによるものも、多くの報告があるようです。
また、中には「ヒョウ」「ネコ」「ヒツジ」「ダチョウ」などによるものも報告されています。
孤立してしまった子供
こちらは、ある程度の成長した子供が山や森などで遭難などしたり、または親が置き去りにするなどして、他の人間との接点がなく成長したケースです。
基本的には、動物に育てられたわけではありません。自分の力で成長をしてきたケースです。
代表例としては、1797年頃に南フランスで発見・保護された「アヴェロンの野生児」があげられます。
また、このケースの野生児が、途中から動物と生活を共にするケースも多いようです。
放置または育児放棄、正当な育児が施されなかった子供
こちらは、野生で育ったわけではありませんが、長きにわたり放置されたり幽閉されたりなど、正当な育児を施されなかったケースです。
上述の2例とは、基本的に異なりますね。
しかし、大切な幼児期に教育を受けられず、愛情をもって接してもらえなかった。
また、人間社会とのかかわりを持てなかったことなどから野生児として扱われます。
こちらの代表例としては、1800年代のドイツの孤児「カスパー・ハウザー(16歳ごろまで地下室に監禁)」があげられます。
野生児の特徴
この野生児に関しては、生物学者リンネの「自然の体系」など様々な資料や文献があります。
それらにおいて、野生児の特徴的な事柄が記されていますので、ここでまとめてご紹介しておきましょう。
野生児の特徴としてあげられている事項
- 2足歩行をせず、四つ足で歩く
- 言語を用いない
- 暑さや寒さに対する感覚機能の低下
- 感情表現が乏しく人間との距離をとる
- 羞恥心が欠落している
- 性的な欲求が乏しいまたは欠落している
- 未調理食品を好む
などがあげられています。
なお、これらが顕著に表れるのは上記の種類の中でも「動物に育てられた子供」「孤立してしまった子供」が基本となるようです。
「放置または育児放棄、正当な育児が施されなかった子供」は人間社会の中での孤立ですので、あまりあてはまらないのは当然ではありますね。
また、これら特徴はいずれも人間社会を基準に考えられているものですので、「言語の未使用」や「羞恥心の欠落」「未調理食品を好む」に関しては、生活の延長上仕方ないとも言えます。
これ以外にも「毛でおおわれている」と説くものもあるようですが、これは適応するのが一部とのことから否定的です。
また、保護後「知的な部分」での遅れが多く見られるようです。
これは、必要時の学習が無いことももちろんですが、先天的に「知的障害・自閉症」を持っていたとも考えられています。
それが理由となり、親に見捨てられてしまったのではないかとの意見もありますね。
ただ、野生下で生き延びたことを考えると、それ相応の手段や技能を必要とするため、この先天性を疑問視する声もあるようです。
「動物に育てられた子供」の野生児には懐疑的な意見も
今回の主題となる「動物に育てられた子供」の野生児の事例は、次項で詳しくお伝えしますが、中には懐疑的な意見も多々あります。
前述の「孤立してしまった子供」と「放置または育児放棄、正当な育児が施されなかった子供」。
こちらに関しては、代表例とした「アヴェロンの野生児」に「カスパー・ハウザー」の資料としてしっかりとしたものが残っているので信憑性も高いのですが…。
人間の赤ちゃんを野生動物が育てることには、内臓機能の違いや歯の構造の違いなどから実質不可能ではないかとする意見が大半を占めています。
「孤立してしまった子供」が成長過程で動物と行動を共にするようになった。
または、話題性を込めて動物と結びつけたのではないかともされています。
動物に育てられた子供の実例一覧とその後
さて、懐疑的な意見があることは重々承知しております。
それでも世界で騒がれた、この動物に育てられたとする子供のニュースは存在するのです。
ここでは、その中でも特に有名な「悲しい実話」をご紹介しましょう。
オオカミに育てられた「アマラとカマラ」
まず、動物に育てられた人間を紹介するにあたっては、オオカミに育てられた「アマラとカマラ」からお話をする必要があります。
こちらは、動物に育てられた人間の話としては最も有名な実例ですね。
1920年、インドで二人の少女「アマラとカマラ」は発見・保護されました。
彼女たちを発見・保護したのは孤児院を運営するキリスト教伝道師「ジョセフ・シング」牧師とされています。
シング牧師は、伝道旅行の途中ゴダムリ村でジャングルにいる化け物退治を依頼されました。
そのジャングルで、オオカミと暮らす「アマラとカマラ(名前は保護後に命名)」を発見・保護したのです。
推定年齢でカマラがおよそ8歳、アマラがおよそ2歳とされています。
二人は言葉を話すことが出来ません、また2足歩行ではなく手をついた4足歩行、夜行性で遠吠え癖があり、食事も生肉と牛乳を好んで食するなど、野生のオオカミと同じ特徴を持っていたのです。
不思議なことに、身体の特徴も野生での生活に適応するかのように、足の指は開き気味で手も長くなっていたとされています。
また、嗅覚と視覚が非常に優れていたようです。
シング夫婦は、献身的に二人に接し人間の生活を教え込みますが、知能に関してはなかなか向上が難しかったようです。
これは、彼女たちには知的な障害があったとも考えられています。
最初に言葉を発したのは幼いアマラで、2か月経ってからでした。年上のカマラが言葉を話すには、2年を要したようです。
残念ながら幼いアマラは、孤児院に来て1年後に病気で亡くなってしまいました。
年上のカマラは、アマラの死後涙を流しふさぎ込む期間があったようです。
それでも懸命に努力して、3年目にはよちよちしながらも歩き始めます。完全に2足歩行が出来るようになったのは5年目のことでした。
しかし、そんな彼女も9年目に病気で命を落としてしまいました。
その他のオオカミに育てられた事例
人間を育てたとされる動物で最も多いのがオオカミです。前述の「アマラとカマラ」以外にも次のような事例があります。
- 「デビルズリバーのオオカミ少女」
こちらの場合には、保護には至らず逃げられてしまっているのですが…。
1845年、メキシコのデビルズ川周辺でオオカミにヤギが襲われる事件が発生します。
これは普通によくあることですが、そのオオカミの群れ中には、推定10歳程度と思われる少女の姿があったのです。
この時は、そのままオオカミと一緒に逃げ去ってしまいました。
しかし1年程後に、再びオオカミと一緒にいる少女の姿が、サンフェリペで二人の女性に目撃されたのです。
この目撃情報を基に、少女の捜索活動が開始され、無事にこの少女を保護するに至るのです。
捕獲されたその少女は、驚くほど大きな遠吠えを発しました。
するとその遠吠えを合図にたくさんのオオカミが現れたのです。その混乱の中、少女は脱走してしまうのです。
逃げ出したその少女の行方は、その後一切分かっていません。オオカミの子供に授乳する女性を見たなどの情報もあるようですが…。
しかしこの少女は何者なのでしょうか。
少女が発見される10年前の1835年に、デビルズリバーに住むデント夫妻が一人の少女を出産しました。
しかし、少女を出産した直後に夫婦は不慮の事故で命を落としてしまいます。
この時に残された生まれたばかりの少女は、オオカミに連れ去られ食べられたとされていました。
オオカミと一緒にいた少女は、このデント夫婦の子供ではないかと考えられています。
- その他にも
最も古い野生児の記録として1867年インドのオオカミ少年「ダイナ・サニチャー」の説があります。
山狩りをしてたハンターが、洞窟でオオカミと暮らす少年を発見したものです。
保護された時には6歳程度と推測された少年は「ダイナ・サニチャー」と名付けられ、孤児院で暮らすことになりました。
保護後順調に成長し仕事もしていましたが、1894年に死亡してしまいます。
最後まで言葉を話すことは出来なかったようです。
1965年、スペインでオオカミと暮らす青年「マルコス」が発見・保護されました。
もともとは、幼くしてヤギの牧場へと売られた少年でした。
しかし、彼が7歳の時に牧場主が亡くなり一人になったマルコスは19歳で発見されるまでの間、オオカミと生活を共にしていたのです。
野生児期間が長いので社会復帰には、非常に苦労したようです。
彼の様子は映画「ENTRELOBOS」で描かれています。
1972年、インドの森でオオカミと遊ぶ4歳くらいの男の子が発見・保護されました。
こちらの少年は「パーセル」と名付けられ、人間としての生活を送りましたが1985年に亡くなったとされています。
手話は覚えたようですが、言葉を話すことは出来なかったようです。
2007年にモスクワで森の中で保護された少年がいます。
「ライカ」と名付けられた少年は、オオカミに育てられたと目されてましたが、検査途中に暴れて逃げ出しそれ以降彼の消息はつかめていません。
犬に育てられた事例
- ウクライナの少女「オクサナ・マラヤ」
1983年、当時のソ連(現:ウクライナ)で生まれた少女「オクサナ・マラヤ」。
アルコール中毒の両親は彼女の面倒を見なかったため、3歳の時に家の裏にある犬小屋に住み始めたのです。
彼女が発見される1991年までの間、彼女は犬小屋で暮らしていたとされています。
発見された当初は、言語は話せず4足歩行で、犬のような行動をとっていたとされています。
その後、精神障害の施設に収容された彼女は、そこで人間の生活を覚え、言葉を使えるようになり人間としての生活を手に入れました。
しかしながら知的な障害が見られるため、精神病患者として牧場の世話をしながら暮らしているようです。
- 犬のリーダーとなった「イヴァン・ミシュコフ」
1988年、ロシアでは犬の群れの中で暮らす一人の少年が発見・保護されました。
当時6歳だったイヴァン・ミシュコフは、2年前に家族からの虐待から逃れるために家出をしていたのです。
ストリートでの物乞い生活をし、次第に野犬の群れとの信頼関係を築くようになりました。
この生活は2年間続き、遂には彼は群れのリーダーの座に上り詰めたのです。
野生児としての期間が2年間と比較的短かったこともあり、彼は言葉は話せましたし短期間で人間性を回復することが出来ました。
今は普通に生活を送っています。一説には、士官学校に入学しロシア軍へ入隊しているとも…。
- ルーマニアの少年「トライアン・カルダラー」
2002年、ルーマニアで野犬に育てられたと見られる7歳の少年が発見・保護されました。
彼は、父親の暴力から逃れるため4歳で家出をしてその後犬に育てられたと考えられています。
発見当時の彼の姿は、栄養失調状態で3歳児程度の体格だったとされています。
人間社会へ馴染むのも大変だったようですが、なんとか社会復帰が出来、2007年には小学校へ通い始めるようになりました。
- チリの少年「アレックス」
2001年にチリの洞くつで15匹の犬と暮らす少年が発見・保護されました。
この少年は「アレックス」と言う名で、10歳と推測されますが保護当時は非常に痩せこけてしまっていたようです。
5歳の時に親に捨てられたアレックスは、5年間も犬たちと生活を共にしていたのです。
後には初歩的なスペイン語も話せるようになったとされていますが、詳細は定かではありません。。
サルに育てられた事例
- コロンビアの少女「マリーナ・チャップマン」
1959年コロンビアのジャングルでオマキザル(ノドジロオマキザルとする説も)の家族と生活する少女が発見・保護されます。
推定年齢10歳と見られる少女「マリーナ・チャップマン」は、5歳の時に誘拐されジャングルで置き去りにされたと考えられています。
ジャングルでは、発見されるまでの5年間をオマキザルの家族と行動を共にし、その間はサルと同じものを食べ同じ暮らしをしていたようです。
発見された当時彼女は、人間の言葉は失っていました。
このような過酷な、幼少期を過ごした彼女ですが、ここからさらに過酷な運命を強いられることになるのです。
彼女を発見したのはハンターでした。そのハンターにより彼女はそのまま風俗のお店へと売られてしまったのです。
そこを抜け出した彼女は、ストリートチルドレンからマフィアの奴隷と言う辛い生活を送ることになります。
幸い、そこも抜け出した彼女は、優しく迎えてくれる家族と出会い、1977年にイギリスに渡ります。
そして、結婚もして子供も授かり幸せに暮らしています。
後に彼女は、自身の野生児時代をつづった「失われた名前」と言う書籍を出版し、ベストセラーとなっています。
- ウガンダの少年「ジョン・セブンヤ」
1991年のウガンダのジャングルでは、サルに育てられた少年「ジョン・セブンヤ」が発見・保護されました。
彼は3歳のころ、父親の恐怖から逃げるためにジャングルへ隠れたのです。
恐怖とさみしさで震える少年を優しく包んでくれたのがベルベットモンキー(ミドリザルと記す資料もあり)でした。
もともとベルベットモンキーは、弱い仲間を助ける習性があり、彼はこのベルベットモンキーの習性により助かったのです。
それから彼が6歳で発見・保護されるまで、3年もの間行動を共にしていたようです。
発見時の彼は、全身が毛でおおわれ、歩き方から食べ物(木の根、ナッツ、サツマイモ、キャッサバなど)まで全てがサルと同じでした。
特徴的なのは、腸内の寄生虫が異常繁殖し中には50センチメートルを超すものもいたようです。
彼は、孤児院を営む夫婦のもとに引き取られ、そこで人間生活を学びました。
後々、アフリカの聖歌隊に所属することになりイギリスツアーへ行くことで有名になったのです。
- ナイジェリアの少年「ベロ」
1996年、ナイジェリアのジャングルで「ベロ」と言う小さな男の子が発見・保護されました。
正確な年齢は不明ですが、推定で2歳から3歳程度と言われています。
ベロは、生後半年くらいの時にジャングルに置き去りにされてしまいました。当然その幼さですから、一人で生きていくことは不可能です。
そんな彼を救ったのはジャングルに棲むチンパンジーだったのです。
発見された時のベロの行動はまさにチンパンジーそのものだったと言われています。
引き取られた孤児院で人間として暮らすことは出来たのですが、2005年に12歳(推定)の若さで亡くなってしまいました。
死因は明らかにされていません。
結局彼は、人間の言葉を話すことは出来なかったようです。
やはり障害があったのかも知れませんね。
その他の動物の事例
これまでに、動物に育てられた人間の実例として、オオカミによるもの、犬によるもの、サルによるものをご紹介しました。
もちろん、オオカミ・犬・サルいずれも他にも事例があるようですが、中には次のような他の動物によるものも存在します。
- ダチョウと暮らした少年「ハダラ」
- ヤギと暮らした少年「ダニエル」
- ネコが育てた「赤ちゃん」
- ヒョウにさらわれ育てられた「少年」
などなど
しかしながら、これらはいずれも記述があまり具体的ではありません。
目を通していても、懐疑的に感じてしまう部分が多々あるので、ここではそういう話もあるとご理解ください。
野生児は短命となることが多い。
さて、ここまでにご紹介した動物に育てられたとする人間・野生児ですが、多くの場合に短命であるとされています。
資料などによれば、人間社会におけるストレスがその原因と推測されています。
幼いころに育った動物社会の環境と、教育がなされている人間社会の環境ではあまりにも違いが大きくその変化についていけないとされているのです。
もしそうであるなら、仮に野生児が発見されずに成長したら、どれくらい生き続けるのでしょうか。
長く生きられるのであれば、どちらが幸せかはわからなくなってしまいますね。
まとめ
今回、野生動物に育てられた人間についてご紹介をしてまいりました。
これまでに、多くの野生児が発見・保護されています。
これらは、その信憑性に懐疑的な意見はあるものの、人間社会から離れた環境で育ってきたことは事実のようです。
乳飲み子の赤ちゃんが、野生動物に育てられ成長することは、人間の身体の構造から難しいとされています。
チンパンジーが一番信憑性がありそうですが…。
恐らくある程度の成長をした子供が、ジャングルなどで奇跡的に生き延びた。
その過程において、あるケースでは動物と生活を共にするようになり、またあるケースではそのまま一人で生き延びたと言うのがことの真相ではないでしょうか。
そうなると、発見されずに死んでいった野生児も相当数存在したかも知れませんね。
これらを見ていくと、人間の成長において幼いころの体験は非常に大きな影響を及ぼすことが分かります。
この時にしっかりとした教育を受けておかないと、取り返すのにはかなりの時間がかかる、もしくはもう取り返すことが出来ないのかも知れません。
また、社会復帰した野生児が短命であることも、非常に気になります。
人間社会のストレスがその原因と結論付けていますが、保護後10年程度は生きるケースが多いのです。
その信憑性はどうなのでしょうか?
その間のストレスが溜まっているということなのでしょうか?
もしかしたら、我々人間には気が付かない恐ろしいものが、人間社会には存在しているのかも知れません。
様々なことを考えさせられる野生児ですが、これは一人の人間の人生における悲しい実話なんです。
非常にデリケートな問題で、そこには興味本位や売名などが絡んではいけません。
このことは、肝に銘じておきたいですね。