今回ご紹介するのは「アブラコソムツ」です。
あまり見かけない魚ですので、ご存知ない方も多いかもしれませんね。
ムツと付くので、食用として出回っているムツの仲間と思われるかも知れません。
しかし、実はこのアブラコソムツは、食べると大変なことになってしまう危険な魚なのです。
アブラコソムツが持つ油脂成分を人間では消化することが出来ないため、下痢や食中毒の危険性があるのです。
日本では、このアブラコソムツは販売禁止となっていて市場に出回ることはありませんが、釣りや漁などで入手することが可能です。
また、アブラコソムツを偽装して販売する事件なども過去にはありましたし、海外では今もその危険性が残っているようです。
海外のホワイトツナにこのアブラコソムツが使われているなどは、その最たる例かも知れません。
今回は、このアブラコソムツについて、生態から危険性など詳細をご紹介します。
アブラコソムツ
「アブラコソムツの基本データ」
- 分 類 スズキ目 クロタチカマス目 アブラソコムツ属
- 学 名 Lepidocybium flavobrunneum
- 和 名 アブラコソムツ
- 英 名 Escolar
- 体 長 体長1メートルオーバーの大型魚で、最大では1.5メートルにも。
- 分布域 世界中の温・熱帯の深海域
アブラコソムツの生態
アブラコソムツは、黒っぽい体色に白い目、そして鋭い歯が特徴的な深海魚です。
大きさは1メートルオーバーは当たり前で、大きいものでは1.5メートル体重も50キログラム以上になります。
この体長にして、かなり豪快に泳ぐことからスポーツフィッシングとして、非常に人気の魚なんですね。
世界各国の深海で生息が確認されていて、その水深は1000メートル近い深さまでにもなるようです。
日本では相模湾から土佐湾、沖縄から台湾南部までの深海で確認されています。
魚には、地域によって呼び名が変わるものが存在しますが、このアブラコソムツも同様に静岡では「サットウ」、沖縄では「インガンダルマ」や「ダルマ」などと呼ばれています。
名前にムツと付くことから、食用とされるムツの仲間と思われがちですが、実際に「スズキ目」に属する深海魚と言う類似点はありますが、関係としては遠いものです。
このアブラコソムツとムツとの一番の違いは、「食用か否か」かも知れません。
ムツとは異なり、アブラコソムツは食用魚ではないのです。
アブラコソムツには大量の脂
アブラコソムツは「oilfish」と呼ばれることもあるように、その体には大量の脂が詰まっています。
これは深海魚特有の浮袋を持たないことから、この脂を使って浮力を得ているのです。
そうなると、脂がのったブリやサンマ、大トロなどと同じように「美味なのでは?」そう思われがちですね。
確かに、このアブラコソムツを食した場合に「美味」とされています。
しかし残念ながら、前述のようにアブラコソムツは食用とされていません。
その理由は、アブラコソムツの脂はロウソクのロウに近い「ワックスエステル」と言う物質で、私達人間の消化機能では分解することが出来ないためなのです。
アブラコソムツを食べる危険性
前項で、アブラコソムツは食用魚ではないことはお話しました。
実際に販売禁止とされているので市場に出回ることはありません。
しかし、釣りや漁で比較的容易に入手することが可能なんです。
一部の釣り人や漁師さん達など、このアブラコソムツを食した感想を「美味」と紹介することが多々あります。
味覚は人それぞれなので肯定も否定も出来ませんが、それは非常に危険な行為であることは確かなのです。
これは、口にする量などによるところが大きいようですが、下痢や腹痛に油下痢などの症状に襲われることがあります。
※油下痢とは、無意識のうちに肛門からそのまま脂が流れ出てしまう症状になります。
下痢とは言え脱水症状に陥れば非常に危険ですし、過去には食中毒の事例もあります。
また、さらに恐ろしいのは、「皮脂漏症」発生の危険性もあると言うのです。
ネズミによる実験ではありますが、皮膚から脂が染み出してくる「皮脂漏症」の症状が確認されているのです。
この症状があらわれて1週間後にそのネズミは命を落としています。
人間での報告例はありませんが、危険性があるのは紛れもない事実ですね。
これらは、全て前項でご紹介した人間では消化することが出来ない「ワックスエステル」によるものです。
厚生労働省においても自然毒のリスクプロファイルの「魚類:異常脂質」としてこのアブラコソムツを紹介し、注意喚起しているほどなのです。
これらから、アブラコソムツは食べることは可能ではありますが、消化することが出来ない油脂分を含むと言う危険な魚なんですね。
仮に食するにしても、少量でおさえる必要があるようです。
アブラコソムツにかかわる危険な事件
この危険なアブラコソムツは、前述のように日本では1981年に販売禁止措置が取られているので市場に出回る心配はありません。
しかし、アブラコソムツが関係する危険な事件も多数起きています。
例えば、1976年7月から1990年2月までの期間に食中毒事件として8件の報告(油状下痢便症状患者が215名)がされています。
また、アブラコソムツを他の魚と偽り加工品として販売する事件も起こっています。
昭和58年、山梨県の水産加工会社が、和歌山県の水産業者から流れた11トンのアブラコソムツを静岡県の販売業者を経由して仕入れてます。
その内の4.5トンがクエと偽られた加工品として販売されたものです。
これには多数の下痢などの被害が出ていて、5人が逮捕されています。
また知ってから知らずか、このアブラコソムツを切り身として販売した事件もあります。
これとは、また違う事件ですが、東京高判1995.10.31判例時報として「アブラソコムツ事件」がありますので、興味がある方は覗いてみてください。
海外の危険性
今では、日本においては食品管理はある程度安心できるレベルにまで徹底されていますが、海外ではまだ危険性も多くあるようです。
- 有名なのは、海外の「ホワイトツナ」ですね。
ツナと言えば勿論マグロ、場合によってはカツオが代用されることもあります。
しかし海外の「ホワイトツナ」にこのアブラコソムツが使われていると言う報告があるのです。
そうとは知らずに口にした結果、下痢などの症状に襲われる方が多いようです。
海外品を手にする場合には、充分注意が必要ですね。
- 海外のお寿司屋さんも注意が必要です。
また、海外のお寿司屋さんにも充分な注意が必要になります。
日本食のお寿司は海外でもブームとなっています。
しかし、ネタとしてこのアブラコソムツがマグロとして提供されていることが意外と多いようです。
是非とも海外での食事、特にお寿司屋さんでの食事には充分気を付けてください。
釣りでは非常に人気
日本において販売禁止対象の魚ではありますが、釣りや漁などで比較的容易に入手することが出来るアブラコソムツです。
中でも釣りにおいては、大柄で大胆な泳ぎをするため非常に人気が高いのです。
食らいついた際の引きの強さが魅力となり、スポーツフィッシングでは年々人気が上昇していますね。
同じ大型魚でもマグロやヒラマサなどと異なり、難易度が低いことが人気の理由の一つです。
自分の身長程度の大型魚が簡単に釣れる魅力はたまらないようですね。
また、浮袋が無いので、深海魚ですが釣りあげても殺すことなくそのままリリースできるという点も魅力とされています。
まとめ
今回、アブラコソムツについてご紹介いたしました。
食すると危険な魚のため、販売禁止となっているので、釣りをする人以外には馴染みの薄い魚かも知れません。
しかし、食する際の危険性は今回ご紹介した通りに非常にやばいのです。
日本では、過去には色々と事件も起こっていたようですが、現在ではその心配はあまり無いようです。
ただし、非常に美味とされることから、釣ってあえて食する方もいるようですね。
如何に美味しいとはいえ、命あっての物種です。極力控えていただきたいものです。
また、この安全性は海外に行けばそうとも限らないようです。
脂がお尻から垂れ流れてきたり、肌から染み出て来たり・・・・もしも重篤な場合には命の危険も考えられます。
海外旅行の際の食には充分気を付けてください。