「暗殺毛虫」ってご存知でしょうか?何とも恐ろしいネーミングですが、実はこれベネズエラヤママユガという蛾の幼虫の事を指して使われているのです。
その幼虫には非常に強力な猛毒があり、生息地では人間が命を落とすという事件も起きています。
そんな恐ろしいベネズエラヤママユガの仲間は実は日本にも存在し飼育されているとか…。
一体どういうことなのでしょうか?
今回はそんなベネズエラヤママユガの生態や天敵はいるのか?など詳細に説明してまいります。
目次
ベネズエラヤママユガ
「ベネズエラヤママユガ データ」
- 分 類 チョウ目 ヤママユガ科
- 和 名 ベネズエラヤママユガ
- 体 長 5センチメートル程度(幼虫) 15センチメートル程度(成虫の翅を広げた時)
- 寿 命 成虫になると1から2週間程度
- 分布域 中南米
- 生息環境 熱帯雨林
ベネズエラヤママユガの特徴
ベネズエラヤママユガは、幼虫で5センチメートル程度、成虫になると翅を広げた大きさが15センチ程度ととても大きな蛾の一種です。「蛾」というよりも我々日本人の場合には、蚕の一種とした方がピンと来るかもしれませんね。
詳細は後述しますが、幼虫は非常に強力な猛毒をもち、それにふさわしく全身が刺で覆われていて非常にけばけばしいいでたちをしています。南米では「殺人毛虫」として非常に恐れられ、色合いも青や赤、緑など様々な色をしていかにも有毒生物という雰囲気を醸し出しています。
この色合いは実は周りの環境に合わせて変化させることが出来るので、このように多数の体色として表現されることが多いようですね。
このカモフラージュが災いして気がつかないうちにベネズエラヤママユガの幼虫がそばにいて人間が刺されるという事件が頻発しているようです。
一方成虫になると、翅の色は茶色一色で地味で大人しい感じに変わってしまいます。休んで翅を広げているとまるで枯葉のように見えます。これは、成虫になると幼虫の時のように毒を持たないので枯葉に擬態をして身を守っているというわけですね。
このように幼虫時代はずば抜けて恐ろしい武器を所有するのですが、成虫になるとそれを一切放棄してしまうという非常に特殊な昆虫になります。
ベネズエラヤママユガの生態(生息地など)
ベネズエラヤママユガは主にベネズエラを中心に中南米の熱帯雨林に生息をしています。このことからあまり人間と接触する機会は少なかったのですが、環境破壊などの影響で人間の暮らす地域にもベネズエラヤママユガが生息地を広げてきているようです。
その食性は、幼虫時代にはブナ科(コナラやクヌギなど)の植物の葉を食して育ちますが、成虫になると食物を食べる口が退化でなくなっており物を食することはありません。
成虫になると、幼虫の時に蓄えた栄養分を利用して子孫を残すという目的のためだけに1週間から2週間という短い寿命を全うするのです。
このように成虫になると至って人畜無害な昆虫ですが、その実幼虫時代には非常に危険な昆虫として恐れられているのです。
大抵の場合に毛虫には大なり小なりの毒を有することは承知の事実なのですが、このベネズエラヤママユガの幼虫のそれは非常に強力な猛毒なんですね。
「暗殺毛虫」と呼ばれるほどに恐るべき毒
ではこのベネズエラヤママユガの幼虫が有する猛毒とは一体どのようなものなのでしょうか?
この毒は、毒ヘビとして有名なクサリヘビやガラガラヘビ、マムシ、ハブなどと同じ抗凝血性の出血毒になります。「間違いなく節足動物の中では最強の毒」とされる程に強力で刺されてしまうと人間の場合には死に至ってしまう危険性もあるのです。
それ故付いた名前が「暗殺毛虫!」に「殺人毛虫!」と言うのですから驚いてしまいますね。それ程までにこのベネズエラヤママユガの幼虫は恐れられているのです。
もしもこのベネズエラヤママユガの幼虫に刺されたら…。
仮にこのベネズエラヤママユガの幼虫に刺されてしまったら、抗凝血性ということからも分かるようにまずはこの傷口からの出血が止まらずおさまりません。
またこれが原因となり内臓出血や脳内出血を引き起こしてしまう危険性も考えられるのです。さらには、この脅威が腎臓にも及び破壊されてしまい遂には命を落ろしてしまうこともあるようです。
この非常に恐ろしい毒ですが、最近ようやくその血清が作られたという嬉しいニュースもあります。これによって命を落とす危険性は断然低くすることが出来ますね。
しかしそれでも数年前には、ブラジルでこのベネズエラヤママユガの幼虫が大量発生し多くの死者が出るという悲しい事件も起きています。
毒による人間の被害
実際に現地では「暗殺毛虫!」「殺人毛虫!」と恐れられるベネズエラヤママユガの幼虫なんですが、これまでに500人以上の尊い人命がこれにより奪われているのです。
最近になって血清が出来たので、最悪のケースを招くことは少なくなりそうですが、それでも前述のようにブラジルでの大量発生による多くの犠牲者が出ているのも事実なんですね。
仮に、一命はとりとめても襲い来る激痛の恐怖は変わらないのかもしれません。
何故被害が増えたのか
しかし、この人間の被害なんですが、実はこれが増えたのには人間自身の都合によるところも幾分かあるようなんですね。
そもそもベネズエラヤママユガは人間の暮らす地域よりもはるか遠くのジャングルの奥地で生息をしていたのです。ですので、以前はベネズエラヤママユガと人間が接する機会は多くは無かったようなんです。
しかし人間による森林伐採など環境破壊でベネズエラヤママユガの生息地が奪われていきました。その結果新たな生息地を求めてベネズエラヤママユガが人間の暮らす地域へとたどり着いたのです。
森林伐採などの環境破壊が続く限り、人間の被害も拡大されていくことは容易に想像がつきますね。
血清があるとは言え、危険なことには変わりません。人間の行う行為でこの状況を作ってしまう…何とももどかしいところであります。
ベネズエラヤママユガの天敵は?
さて、このように非常に強力な猛毒を有するベネズエラヤママユガに天敵となるものは存在するのでしょうか?
成虫になってしまえば、危険な毒を破棄してしまうので、鳥やトカゲ、他にもクモやその他肉食動物に襲われる危険性は多々あります。その為に成虫は擬態という方法を身に着けています。
また、猛毒を有する幼虫であっても、寄生する蜂や蠅が存在するようです。また蟻やカメムシなどの肉食昆虫も天敵となり得るようですね。
日本は大丈夫?
幸いなことに日本にはベネズエラヤママユガは存在しません。しかし日本にもそれとは別のヤママユガが存在します。
でも心配はご無用です、そこはご安心していただいて大丈夫なんです。日本のヤママユガはベネズエラヤママユガとは異なり無毒なんです。
それどころか、むしろ我々人間にとってはとてもありがたい存在なんです。しかしこれまでのお話を聞いていると「それって一体どういうこと?」と思われてしまいますよね。
日本のヤママユガ
日本のヤママユガは、長野県安曇野市穂高が有名かも知れません。
冒頭でも少し触れましたが、別名を「天蚕(てんさん)」とも言い素晴らしい絹糸を作り出して我々にとって非常にありがたい存在なんです。
このやままゆがが作り出すのは「繊維のダイヤモンド」と称されるとても高級な絹糸「天蚕糸(てんさんし)」になります。
実は、この天蚕糸は普通の蚕が作り出す絹糸の100倍もの価格て取引されるというから驚いてしまいますね。さらにこの高級絹糸の素晴らしいところは、抗菌性に保温・保湿性、防臭性、UVカット、緩衝性に優れた素晴らしい効果を生み出してくれるのです。
この長野県安曇野市穂高は蚕の飼育で有名ですので、ご存知の方も多いかもしれませんね。
このように日本では、やままゆがは人間と共生するように進化を遂げ、一方ベネズエラヤママユガは人間とは一線を画しその過酷な環境で生き抜く進化を遂げたのでしょう。
ところ変わればとは言いますが、同じ仲間でここまでの違いが生じるのも珍しいかもしれませんね。
ただ、日本のヤママユガも成虫の大きさはベネズエラヤママユガと同じ15センチ程度なのでその大きさには驚いてしまうかもしれません。
まとめ
今回恐ろしいベネズエラヤママユガについてご説明をしてまいりました。
これまでに500人以上もの命を奪っている非常に恐ろしい昆虫なのですが、実はその原因の一端は被害者である人間によるものでもあるとは、何とも考えさせられてしまいますね。
同じヤママユガでも日本のように人間と共生出来る道を選べば…なんて考えるのも人間の勝手な思想なのかもしれません。
人間の被害も少なく、ベネズエラヤママユガも安全に暮らせる環境が整う事を願いたいですね。