「殺人アメーバ」「人喰いアメーバ」と呼ばれる生物をご存知でしょうか。アメリカでは感染が143件確認され、生存者はなんと4名。その致死率は驚異の97%です。このアメーバは人の脳を喰らい、5日で死に至らしめます。「そんな危険なアメーバが日本にいるのか?その危険性は?」この記事ではその疑問にお答えしていきます。
目次
フォーラーネグレリアの基本情報
出典画像:Wikipedia
- 学名:Naegleria fowleri
- 分類:シゾピレヌス目フォールカンピア科ネグレリア属
- 分布:温水環境(25~30度)
フォーラーネグレリアはいわゆるアメーバの仲間で、1965年にオーストラリアでフォーラー(Fowler)とカーター(Carter)によって発見されました。
フォーラーネグレリアはおもに温泉や温かい湖沼に生息し、水中や土壌中のバクテリアを捕食しています。
このフォーラーネグレリアは「人食いアメーバ」や「殺人アメーバ」として恐れられています。なぜこのように恐れられているのか、この記事ではその理由などをご紹介しいきます。
フォーラーネグレリア〜脳細胞を喰い荒らす、人食いアメーバ〜
「人食い」「殺人」という恐ろしい単語が連なるフォーラーネグレリアというアメーバはなぜこれほど恐れられるのか。
それは「このアメーバからは、まず助からない」からなのです。その致死率は97%。たとえ助かっても重篤な障害が残るのです。この章ではその危険性と被害について詳しくみていきます。
フォーラーネグレリアの危険性と被害
このアメーバは普段は温水の湖沼や温泉にいて、同じ環境内のバクテリアを捕食して生活しています。
しかし、このアメーバは一度違う環境に入り込んでしまうと、その環境に存在するものを溶かしてその養分を食べ始めます。
それがたとえ人間の体内や脳であれ、そのアメーバは食べることを止めずに食い進んでいきます。
2018年9月、アメリカのニュージャージー州ヴェントナーシティーのファブリッツィオ・ステイビル(29歳)は突如襲われた強烈な頭痛に動けなくなってしまいました。医療機関に運ばれたステイビルは各種検査を受け、すると彼の髄液からフォーラーネグレリアが見つかりました。そしてその翌日、ステイビルはPAM(原発生アメーバ生髄膜脳炎)で亡くなりました。
ここで一番問題になるのは、「PAMを引き起こしたフォーラーネグレリアどのようにしてステイビルの体内に侵入し、髄液や脳に到達したのか」ということです。
温水や湖沼から体内への感染経路の調査が行われました。
その後の調査によると、ステイビルは頭痛の直前にテキサス州のウェーコにあるBSRサーフリゾートを旅行で訪れており、そこのウェーブプールを利用していることがわかりました。
この事態が発覚後、BSRサーフリゾートのウェーブプールは閉鎖され、原因究明と対策が急がれています。
フォーラーネグレリアの生態や経路、潜伏期間
致死率97%という恐ろしい殺人アメーバ、フォーラーネグレリアはどのようにステイビルの体内に侵入したのでしょうか。
実はフォーラーネグレリアが人体に取り憑くためには、宿主の鼻腔内に入る必要があります。
感染経路は「鼻腔に侵入」というのは限られた条件に思えますが、プールや水遊びの場では容易に起こりうることです。
水しぶきなどに混じって鼻腔に侵入したフォーラーネグレリアは鼻腔内で食べれるものを探します。
そして鼻腔内の鼻球という匂いを感知する器官を食べ始めます。これによって宿主は風邪のような症状に加えて「匂いを感じなくなる」という症状が現れます。
こうして体内に侵入し食料を認識したフォーラーネグレリアは嗅神経に沿って食い進みます。そして神経の行き着く最終地点の脳に侵入します。
その頃には人体の組織を“餌”として認識したフォーラーネグレリアは脳組織や脳細胞を溶かし養分として吸収します。
こうなると脳は晴れ上がり、侵食部分はネクローシスという「細胞の死」に陥ります。このネクローシスによってPAM(原発生アメーバ生髄膜脳炎)が引き起こされます。
ここに至るまで、宿主には風邪に似た症状の他、猛烈な頭痛、嘔吐、幻覚、変性意識(トランス状態)、昏睡、そして死へと至ります。ここまでおよそ5日間の出来事なのです。
原因がフォーラーネグレリアと特定するために数日かかるため、助かる見込みはほぼ絶望的です。
今までの症例は1962年に最初の症例が確認されてから143例。そして生存者は4名。
日常生活を送る中での感染確率自体が低いため、症例数は少ないが、それでも生存率が3%というのは十分脅威に足る数値です。
フォーラーネグレリアは湖沼にいる!?日本の琵琶湖には!?
近年温暖化やヒートアイランド現象が問題となっている日本ですが、フォーラーネグレリアの危険性はないのでしょうか。
日本での症例は1件のみ報告されており、1996年佐賀県の女性(25歳)が感染し、脳膨張や脳幹の軟化、脳の形状崩壊が確認されており、無数のフォーラーネグレリアが発見されてとのことです。
感染経路はいまだに不明ですが、一般論から言えば、日本国内の湖沼や温泉でフォーラーネグレリアに感染する可能性はないとされています。
それは日本には四季があり、温水を好むフォーラーネグレリアが越冬しにくいということと、プールなどは塩素消毒が施されているためフォーラーネグレリアが生き延びられないからです。もちろん琵琶湖のような巨大な湖でも同様です。
ただし、高すぎる致死率は看過することできないほどで、グローバル化が進み海外旅行が手軽に行えるようになってきた日本において、その危険性を認知しておく必要があるかもしれません。
知らなかったじゃ済まない「殺人アメーバ」
フォーラーネグレリアは殺人アメーバとされていますが、体内にさえ入れなければ全くの無害です。
そこで唯一の感染経路です鼻腔を塞ぐ「鼻栓」が侵入を防ぐのに有効とされています。
もちろんほとんどのプールは塩素処理がされ、生水をそのまま使っているということはないと思います。
ただし「意識を持つ」「認識しておく」ということが大切なのではないでしょうか。致死率97%という数値は「知らなかった」では後の祭りなのです。