蜂類のもつ針は産卵管が変化したもので、元は卵を産み付けるための器官です。
しかし、社会生活をするスズメバチ、アシナガバチ、ミツバチなどでは、狩りバチの時代に獲得した毒針を武器としてだけに使い、敵から巣を守るために使うようになったのです。
そして身を守ったり、獲物をとらえたりするときなどに、この毒針をつきさし、毒液を注入します。
スズメバチ、アシナガバチ、ミツバチ類などの毒のある蜂は、女王バチと働きバチに毒針があります。毒針は毒器官につながっていて、針を刺しこむと、毒が針の先を通って相手の体の中に流れ込みます。
「痛い!」ですむものもいますが、命にかかわる毒をもつものも少なくありません。中でも、日本で最も被害の多いのがスズメバチです。
今回の記事では、日本に生息する蜂で、刺されたら非常に危険な蜂の種類一覧と、その見分け方について写真付きで解説します。
また、蜂に最も刺されやすい危険な時期や、実際に刺されてしまった時の応急処置や刺されないようにするための予防策なども解説します。
蜂に人が刺される事故は毎年起きていますので、しっかりと対策をとり自分の身を守りましょう。
目次
蜂に刺されやすい最も危険な時期は?
巣が大きくなる夏から秋が、最も蜂にさされやすい危険な時期です。女王蜂以外の蜂は、冬をこさずに1年で死んでしまいます。
12月〜3月
巣は空になり、女王蜂は冬眠
4月
女王蜂が冬眠から目覚めます。
5月
巣作り開始
7月〜9月
この時期が最も刺されやすくなります。8月に働き蜂が生まれ、巣が大きくなります。
10月
新女王蜂と雄蜂が生まれ、巣が最大になります。
キイロスズメバチは夏に巣の引越しをする習性があるので、新しい巣と元の巣を行き来する蜂に人が刺される事故が多く起きています。
毒針は、メス(働き蜂)の産卵管が変化したもので、オスは刺しません。刺す時には針が腹部から飛び出し、毒の入ったふくろから毒液を送り出します。ミツバチは一度刺すと針が抜けてしまいますが、スズメバチの仲間は何度も刺すことが出来ます。
蜂に刺されたら病院は何科?
人間が蜂に刺される事故のほとんどが、気づかず巣に近づいた時に起きています。
オオスズメバチなど蜂の仲間の毒には、様々な成分がふくまれています。その中の成分に対して、頭痛やじんましんなどのアレルギー反応がまれにおこります。
刺されたところの腫れが異常でかゆみも痛みも収まらないという場合には、病院の受診科は最寄りの皮膚科で見てもらいましょう。
また、刺されて15分以内で全身症状(全身のかゆみ、吐き気、めまいなど)を感じる場合には、すぐに病院を受診してください。全身症状の場合の受診科はアレルギー内科が一番適切です。
蜂に刺されてもっともこわいアレルギー反応は「アナフィラキシーショック」です。
めまいや呼吸困難をおこして死亡することがあり、スズメバチに刺されて死亡する事故のほとんどは、アナフィラキシーショックが原因だといわれています。
万が一スズメバチに刺されたら、迷わずアレルギー内科を受診して下さい。また、緊急性がある場合は救急車を呼ぶことも大切です。
危険なスズメバチ一覧と見分け方
危険なアシナガバチ一覧と見分け方
アシナガバチは、スズメバチの仲間でスズメバチと同じように巣をつくって生活します。スズメバチよりも性格はおとなしく、症状も軽いですが、スズメバチと同じような毒を持っており、種によっては非常に攻撃的になります。軒下に巣をつくることが多く、見かけることの多い蜂です。
刺されると激しくはれて痛みますので、刺されたら病院にすぐ行きましょう。
キアシナガバチ
出典画像:こんなものを見た2
- 科名:スズメバチ科
- 体長:18〜24mm
- 分布:北海道〜奄美大島
- 巣を作る場所:家の軒下、石垣、木の枝など
- 成虫が見られる時期:4〜10月
- 危険な部位:おしりの毒針
- 危険度:
雑木林などにすみ、蝶や蛾の幼虫をおそいます。見た目はセグロアシナガバチによく似ています。アシナガバチの中では攻撃性が最も高く、巣が大きくなる夏から秋にかけて、巣に近づくとはげしく威嚇しながら飛んできて、刺されることが多いです。分布密度も高いです。
キアシナガバチの見分け方は、セグロアシナガバチよりも黄色が鮮やかです。
セグロアシナガバチ
出典画像:ついでの鳥見人のFiled note
- 科名:スズメバチ科
- 体長:16〜22mm
- 分布:本州〜九州
- 巣を作る場所:家の軒下、石垣、草木の茎や枝など
- 成虫が見られる時期:4〜10月
- 危険な部位:毒針でさす
- 危険度:
セグロアシナガバチは、市街地で最もよく見られます。蝶や蛾の幼虫をおそい、あごで獲物をきりきざんで肉団子にして、巣に持ち帰って自分の幼虫にあたえます。セグロアシナガバチの巣は、放射状に広がった部屋は、大きいものでは200個になることもあります。攻撃性はやや強く、巣に近づくと威嚇します。のき下や木の枝、岩陰などに灰色円形の巣をつくります。
セグロアシナガバチの見分け方は、名前の通り背の部分が黒いのが特徴です。
フタモンアシナガバチ
出典画像:育て方.jp
- 科名:スズメバチ科
- 体長:14〜16mm
- 分布:北海道〜屋久島
- 巣を作る場所:家の軒下、草木の枝、植物の枯れた茎、わかい木
- 成虫が見られる時期:4〜10月
- 危険な部位:毒針でさす
- 危険度:
人家周辺で最もよく見られるアシナガバチです。野菜の害虫となるイモムシなどを食べてくれる益虫でもあります。のき下や木の枝に長円形の巣をつくり、最も被害の多いアシナガバチです。秋には洗濯物にもぐりこんでいて、刺されることがあるので注意が必要です。
フタモンアシナガバチの見分け方として、腹に2つの円があるのが特徴です。
コアシナガバチ
出典画像:こんなものを見た2
- 科名:スズメバチ科
- 体長:11〜14mm
- 分布:北海道〜九州
- 巣を作る場所:日当たりの良い様々な場所
- 成虫が見られる時期:4〜10月
- 危険な部位:毒針でさす
- 危険度:
市街地にもふつうに生息します。日本のアシナガバチの中では最も小さい種です。巣は一方向にのみ部屋を作っていくため、反っていくのが特徴です。
コアシナガバチの見分け方は、体が全体的に黒く黄色と赤褐色の縞模様が入り、小さいのが特徴です。
キボシアシナガバチ
画像出典:ついでの鳥見人のFiled note
- 科名:スズメバチ科
- 体長:13〜16mm
- 分布:北海道〜屋久島
- 巣を作る場所:家の軒下、木の枝やスギの葉の裏など
- 成虫が見られる時期:5〜9月
- 危険な部位:おしりの毒針
- 危険度:
巣はまゆのフタが黄色いのが特徴です。攻撃性がやや強く、女王蜂だけで巣をつくっている時期でも攻撃してくることがあります。
キボシアシナガバチの見分け方は、体が黒と茶色で地味な見た目をしています。
アシナガバチに刺された時の対処法
アシナガバチは、スズメバチの仲間で種によっては攻撃的になります。
軒下に巣をつくることが多く、見かけることの多い蜂です。刺されると激しくはれて痛み、それから赤く腫れ上がりますが、数時間で症状は軽くなります。スズメバチと同じように、毒には様々な成分が入っていて、そのどれかがアレルギー反応を起こすこともあります。
危険なミツバチ一覧と見分け方
ミツバチやマルハナバチ、クマバチなど、花を訪れる蜂を「ハナバチ」と呼びます。ミツバチは、スズメバチやアシナガバチと比べるとおとなしいですが、身を守るために攻撃してくることがあります。
体は小さいですが刺されると非常にはれて痛みます。
蜜を吸うための管状の口と、後ろ足に花粉を運ぶための長い毛を持っています。集団で子育てをするため、巣にもち帰ってたくわえます。
ニホンミツバチ
出典画像:むさしのの都立公園
- 科名:ミツバチ科
- 体長:10〜13mm(はたらきバチ)17〜19mm(女王バチ)
- 分布:本州〜屋久島
- 巣を作る場所:木のうろ、墓石の中、家の屋根裏や壁の間など
- 成虫が見られる時期:3〜10月
- 危険な部位:おしりの毒針
- 危険度:
自然の豊かな場所にすみ、木のほらなどに巣を作る日本固有のミツバチです。ハチミツをとるために長野県の一部と対馬などでは飼育がさかんに行われています。ミツバチは基本はとてもおとなしい性格ですが、巣を刺激すると集団でおそってくることがあり危険です。ミツバチは一度刺すと、針がぬけて死んでしまいます。ミツバチの巣は、スズメバチにおそわれることがあります。ニホンミツバチは、侵入してきたスズメバチを集団で囲み、体を振動させて体温を上げ、蒸し殺します。スズメバチよりも高い温度にたえることができるニホンミツバチがあみだした必殺技です。
ミツバチの見分け方としては、腹の黒い帯が太いのが特徴です。
セイヨウミツバチ(ヨウシュミツバチ)
出典画像:Wikipedia
- 科名:ミツバチ科
- 体長:12〜13mm(働きバチ)20mm(女王バチ)
- 分布:世界中、北海道〜琉球列島、小笠原諸島
- 巣を作る場所:木のうろ、墓石の中、家の屋根裏や壁の間など
- 成虫が見られる時期:3〜11月
- 危険な部位:おしりの毒針
- 危険度:
セイヨウミツバチは、ハチミツをとるために世界中で飼育されています。明治時代の初期に日本へ移入され、日本全国でも飼育されています。温暖な地域では野生化した集団がふつうに見られます。
春にミツバチが球のようになって集まっていることがあります。これは新しい女王蜂が生まれて、新たな巣を探して引越しをしているところです。数日でいなくなってしまいます。ニホンミツバチよりも性質はおとなしく、巣箱を刺激しなければ刺されることはありません。
セイヨウミツバチの見分け方としては、胸の近くでは腹の黒い帯が細いのが特徴です。
アフリカナイズドミツバチ
出典画像:Wikipedia
- 科名:ミツバチ科
- 体長:10〜20mm
- 分布:ブラジル、オーストラリア、アメリカ
- 危険な部位:おしりの毒針
- 危険度:
アフリカミツバチとセイヨウミツバチを交配した雑種です。キラービー(殺人蜂)と呼ばれるほど、攻撃性が強く、一度敵と認識した相手には集団で攻撃を仕掛けてきます。死亡例もある非常に危険なミツバチです。
アフリカナイズドミツバチの見分け方は、セイヨウミツバチよりも小さいのが特徴です。
トラマルハナバチ
- 科名:ミツバチ科
- 体長:19mm
- 分布:北海道〜九州
- 危険な部位:おしりの毒針
- 危険度:
草地でよく見る蜂で、市街地でもよく見られます。花を訪れてみつや花粉を集めようとして、サクラソウやツリフネソウの花によくやってきます。メスには毒針がありますが、とてもおとなしく捕まえなければ刺しません。
トラマルハナバチの見分け方としては、明るいオレンジ色で毛深いのが特徴です。
オオマルハナバチ
画像出典:Wikipedia
- 科名:ミツバチ科
- 体長:10〜23mm
- 分布:北海道〜九州
- 危険な部位:おしりの毒針
- 危険度:
大型のマルハナバチで、地中に巣をつくります。花の蜜と花粉が食物ですが、舌が短いので花の上からでは蜜に届かず、花の根元に穴を開けて吸うこともあります。攻撃性は弱く、巣をほっても、ほとんどおそってきません。
最近では、外国から入ってきたセイヨウオオマルハナバチが増えてきています。
オオマルハナバチの見分け方としては、腹の先がオレンジ色なのが特徴です。
コマルハナバチ
- 科名:ミツバチ科
- 体長:10〜16mm(はたらきバチ)
- 分布:北海道〜九州、屋久島
- 危険な部位:おしりの毒針
- 危険度:
都市でもよく見られるマルハナバチの仲間です。マルハナバチはとてもおとなしく巣に近づいたくらいでは刺しません。
コマルハナバチの見分け方は、全身真っ黒でおしりの部分のみオレンジ色をしています。
キムネクマバチ(クマバチ)
出典画像:Wikipedia
- 科名:コシブトハナバチ科
- 体長:18〜25mm
- 分布:北海道〜九州
- 危険な部位:おしりの毒針
- 危険度:
市街地にも多く見られます。枯れ枝などにトンネル状の巣をつくり、花粉と蜜を団子にしてたくわえたものを幼虫の食物にします。オスは花の周りをぶんぶん飛んで見張っていますが、針がないのでおそうことはありません。メスも素手で捕まえなければ刺してきません。
キムネクマバチの見分け方としては、胸には黄色い毛がびっしりと生えているのが特徴です。
ミツバチに刺された時の対処法
ミツバチは、スズメバチやアシナガバチと比べるとおとなしいですが、身を守るために攻撃してくることがあります。
ミツバチは一度刺したら針がとれて死んでしまいます。
危険なクモバチ一覧と見分け方
クモをおそって幼虫の餌にする蜂です。体が大きく、刺されるとはげしく痛みます。スズメバチやアシナガバチと比べるとおとなしいです。地中の穴などに巣をつくり、スズメバチの仲間とちがって社会性をもたずに単独でくらしています。昆虫やクモを狩って巣に持ち帰る「狩り蜂」です。
オオベッコウバチ
画像出典:カラパイア
- 科名:クモバチ科
- 体長:60mm
- 分布:北アメリカ南部〜南アメリカ
- 危険な部位:おしりの毒針
- 危険度:
世界最大の蜂として有名なクモバチの総称です。巨大なオオツチグモに毒針を刺して麻酔をかけ、卵を産みます。
オオベッコウバチの見分け方は、青みがかった黒い体色にオレンジ色の羽が特徴です。
オオモンクロクモバチ
出典画像:明石・神戸の虫 ときどきプランクトン
- 科名:クモバチ科
- 体長:12〜25mm
- 分布:北海道〜九州
- 危険な部位:おしりの毒針
- 危険度:
平地に多く、ヤブカラシの花によく集まります。おもにイオウイロハシリグモの仲間を狩ります。捕らえたクモに毒針を刺して麻酔をかけ、ノネズミの穴の奥にほった巣に卵を産み、幼虫の食物にします。おとなしい性質なので、直接さわらないかぎり、刺されることはありません。
オオモンクロクモバチの見分け方としては、腹に幅広いオレンジ色の帯があるのが特徴です。
エメラルドゴキブリバチ
出典画像:Dangerous Insects
熱帯地方に生息するエメラルドゴキブリバチは、なんと毒を注入してゴキブリをあやつり人形にして幼虫のえさにします。獲物のゴキブリは毒を注入されると逃げるという行動をしなくなり、エメラルドゴキブリバチの思い通りになります。思い通りになったゴキブリを巣穴まで連れて行くと、卵を産みつけます。卵から幼虫がかえると、成虫になるまでゴキブリを食べて暮らします。エメラルドゴキブリバチは、2回にわけてゴキブリをあやつる毒を注入します。
エメラルドゴキブリバチは、体がエメラルド色、足がオレンジ色ととてもキレイな色をしており簡単に見分けられるでしょう。
蜂に刺されないための予防策
人間が蜂に刺される事故の大半が、気づかずに巣に近づいてしまった時に起きています。
しかし、蜂はすぐに刺してくるわけではなく、「これ以上近づくな!」という合図を3段階で送ってきます。
レベル1:警戒
巣の10m以内に近づくと、偵察に来た蜂が周りをしつこく飛び回ります。蜂はこの段階ではまだおそってきません。手で追い払ったりせず、静かにその場を離れましょう。
レベル2:威嚇
さらに巣に近づくと、大顎を噛み合わせて「カチカチ」という音を出して、威嚇します。針から毒液を飛ばすこともあります。蜂の目は下が見えにくくなっています。姿勢を低くして、ゆっくり離れましょう。毒液が目に入ると失明することもあります。
レベル3:攻撃
威嚇を無視したり、さらに巣に近づくと、巣の中から蜂が一斉に飛び出して攻撃を始めます。大声を出したり、走ったり、手で払ったりすると、蜂は余計興奮します。手で頭をおおって、姿勢を低くし、ゆっくりと10〜20m以上、離れましょう。
野山で刺されないための予防策
野山に出かけるときは、蜂などにさされないよう服装にも気をつけましょう。
頭髪をかくす
明るい色の帽子や、タオルなどで頭をおおいましょう。
黒い服はさける
蜂は黒いものに向かってくる習性があります。白っぽい服装が安全です。
長袖・長ズボンを着用
服の上からでも針は通りますが、被害は小さくなります。
香水などはつけない
蜂はにおいに敏感です。香水などには蜂を興奮させる成分が入っているものもあるので注意しましょう。
まとめ
2016年9月、岐阜県で開かれたマラソン大会で、115人がスズメバチに刺されました。
マラソンコースの橋の下に、大きさ約50㎝のキイロスズメバチの巣があり、沢山のランナーが走った振動や足音が蜂を刺激したと思われます。
この事件で亡くなった方はいませんでしたが、日本では毎年20人前後が蜂に刺されて命を落としています。
蜂に関する知識を身につけ、そもそも蜂に刺されないように予防策をすることは非常に大切です。
また、万が一刺された時の対処法もしっかりと理解しておきましょう。