今回ご紹介するのは、「ダンクルオステウス」です。
古代生物、特に魚類に詳しい方以外には、あまりピンと来ないかも知れませんね。
ダンクルオステウスは、デボン紀に大繁栄し海の生態系の頂点に君臨した、当時の最大種で最強の魚類です。
この大きな体と、もう一つの武器である強力な咬む力(歯の代わりとなる鋭い顎の骨)で、当時の海洋では最強の強さを誇りました。
しかし、そんな最強のダンクルオステウスですが、最終的には絶滅の道を辿ってしまうのです。
それには、後に登場するメガロドンなどの祖先となるサメとの生存競争も絡んでいるようですね。
今回は、そんなダンクルオステウスについて、生態から絶滅した理由に至るまで細かくお伝えします。
目次
ダンクルオステウス
「ダンクルオステウス基本 データ」
- 分 類 節頸目、ディニクティス科、ダンクルオステウス属(魚類-板皮類)
- 生息地 北アメリカ大陸及び北アフリカ大陸北部
- 時 代 古生代デボン紀後期から石炭紀前期
- 全 長 6から10メートル
- 体 重 不明
- 繁 殖 卵生
- 食 性 肉食
- 備 考 頭部から胸部にかけて骨からなる甲冑のような甲羅を身にまとう甲冑魚で、デボン紀後期に大繁栄をして当時の海洋生物の頂点に君臨した魚
ダンクルオステウスの特徴
ダンクルオステウスは、古生代デボン紀後期に北アメリカ大陸および北アフリカ大陸周辺の海に生息をしていた板皮類とされる魚類の一種になります。
体長6メートルから10メートルにもなる非常に大型の肉食魚類です。
特徴的なのは板皮類特有の容姿で、頭部から肩・胸部付近が骨で出来た甲冑のような甲羅(装甲板)で覆われていました。
ダンクルオステウスには歯がありませんが、顎の骨が鋭利に尖り歯の役割を果たしていたのです。
また、板皮類は初めて顎を持った魚類なのですが、咬筋が非常に発達しており非常に大きな咬む力を有していました。
強力な咬む力に歯の代わりとなる鋭利な顎の骨を使って、大型魚類を捕食していたと考えられています。
この咬む力に鋭利な顎の骨、そして大きな体を武器に当時の海では生態系の頂点に君臨していました。
ダンクルオステウスの甲冑部分は固い骨で出来ていたので、化石としての発見例は非常に多いのですが、身体の後方部分は軟骨魚類の為化石となることは難しく発見されていません。
この為、全体像には複数説が存在しています。
ダンクルオステウスの生態
ダンクルオステウスは、その容姿から獰猛なハンターであったと考えられています。
この大きな体と強力な顎の力そして歯の代わりとなる鋭利な顎の骨を使い、大型の魚や同じ甲冑魚、時には共食いもしていたようです。
どのような固い獲物でもバリバリと咬み砕きそのまま飲み込んでいたようですね。
これは歯を持たない形状の為、獲物をすりつぶすことが出来なかったことからそう考えられています。
消化できないような固い部分は吐き出していたとされています。
時として背中に棘を持つ棘魚類などを捕食した際には、棘が口蓋に刺さり死んでしまうこともあったようです。
これを示す化石が多く発見されることから、棘魚類はダンクルオステウスにとって少々やっかいな獲物だったのかも知れません。
また、ダンクルオステウスは、淡水域への進出も可能であるとされることから、海洋生物に限らずあらゆる水棲生物の脅威だったようです。
ダンクルオステウスの強さの秘密
ダンクルオステウスは、「巨大な体」に「強靭な顎の力」、「歯の代わりとなる鋭利な骨」この3つの武器を手にして当時の生態系の頂点に君臨していました。
つまり、ダンクルオステウスの強さを象徴するのが、この3つの武器です。
その中でも、咬む力は非常に強力な武器となりました。
ダンクルオステウスの咬む力
ダンクルオステウスの強さを象徴する3つの武器の中でも、咬む力は桁外れだったようです。
その咬む力ですが、一説には5300ニュートンとも試算されています。
これは、あのティラノサウルスのそれと同レベルとなるのです。
まだ、恐竜が登場する以前から、後の覇者となるティラノサウルスと同レベルの咬む力を有していたことになります。
獲物となる他の海洋生物にしてみればたまったものではありませんね。
また、顎は下顎だけではなく上顎も稼働することが可能で、より大きな獲物を仕留めることが出来たようです。
しかし弱点も
このような当時生態系の頂点に君臨するダンクルオステウスですが、弱点もあったとされています。
敵からの攻撃を防御する甲冑のような甲羅ですが、それゆえに遊泳力は乏しかったと考えられているのです。
また、ダンクルオステウスは浮袋を持ちません、そこに重い甲冑が加わるのですから遊泳スピードは遅くゆっくりとした泳ぎしか出来なかったようですね。
それでも、当時の海には速く泳ぐ生き物が存在しなかったので生態系の頂点に君臨することが出来ました。
これ以降、魚に重い甲冑はそぐわないと進化の過程で無くなったと考えられています。
ダンクルオステウスの絶滅理由
当時生態系の頂点に君臨し絶対的存在であったダンクルオステウスも絶滅という道を辿ることになります。
何故最強のダンクルオステウスは、絶滅をしてしまったのでしょうか。
このダンクルオステウスの絶滅には、次の3つの理由があるようです。
F-F境界絶滅事変
ダンクルオステウス絶滅の最も大きな要因は、今から3億7400万年前(3億7200万年前説もあり)デボン紀後期に起きたとされる「F-F境界絶滅事変」です。
「F-F境界絶滅事変」は未だに不明な点が多いのですが、地球規模の寒冷化と海洋無酸素化が起きたとされています。
これにより海洋生物の82パーセント、ダンクルオステウスなどの板皮類の65パーセントが絶滅してしまいました。
F-F境界絶滅事変後の苦難1「獲物不足」
「F-F境界絶滅事変」で65パーセントもの数を失ってしまったダンクルオステウスです。
しかし、何とか生き残ったものの、ダンクルオステウスの苦難は更に続きます。
まず、「F-F境界絶滅事変」ではダンクルオステウスは65パーセントで留まりましたが、海洋生物全体では82パーセントが絶滅してしまったのです。
当然餌となる獲物が激減してしまいました。
これによりダンクルオステウスの生存もより厳しくなったのです。
F-F境界絶滅事変後の苦難2「ライバルとなるサメ(メガロドンの祖先)の出現」
ダンクルオステウスの絶滅にさらに追い打ちをかけたのが、サメの出現です。
古代の魚類として、ダンクルオステウスと比較されることの多い、メガロドンの祖先筋にあたるサメがこの時代にあらわれます。
この時代のサメは、既にダンクルオステウスよりも速く機敏に泳ぐことが出来る機動力を有しておりました。
同じ肉食魚ですから、当然獲物の奪い合いとなります。
そうなると、機敏に泳ぐサメにダンクルオステウスは到底適いません。
また、以降あらわれる魚類はサメの出現により、遊泳力の高いものばかりになります。
ただでさえ、厳しい餌事情下におけるサメの出現は、ダンクルオステウスの絶滅を決定的なものとしてしまいました。
このように、ダンクルオステウスは時代の変化に取り残され、絶滅へと導かれてしまったのです。
ダンクルオステウスとメガロドン
古代の獰猛な肉食魚を語る上で、このダンクルオステウスとメガロドンは、必ず名前が登場するライバル種です。
しかし、冷静に分析すると「大きさ」に「咬む力」、「機動力」といずれもメガロドンが圧倒しています。
3億5000万年前のダンクルオステウスと1800万年前のメガロドンでは、その進化に大きな差があることは、当然と言えば当然ですね。
しかし、メガロドンの祖先筋にあたるサメの登場時から、その優劣は決まっていたのかも知れません。
祖先筋のサメが絶対的な海洋の覇者ダンクルオステウスを絶滅へと導きました。
そして、後々その子孫となるメガロドンが絶対的な海洋の覇者となるのですから、不思議な因縁と言えるかも知れません。
まとめ
今回、ダンクルオステウスについてご紹介いたしました。
想像もつかない太古の海には、非常に恐ろしい海の覇者が存在していたのです。
頑丈な甲冑に覆われたダンクルオステウスは、当時の緩やかな海では絶対的な存在でした。
しかし、時代とともに取り残されてしまい、最後には絶滅と言う悲しい結末を迎えてしまいます。
甲冑に身を包む巨大な肉食魚、今思えば非常にセンセーショナルかつスタイリッシュな魚かも知れませんね。
実際に泳ぐ雄姿を見てみたいと考えるのは、必然の思いなのでしょう。
このダンクルオステウスもまた、偉大なる太古のロマンなのですね。