毒虫、毒ヘビ、フグ毒など、毒を持つ生き物のイメージは昆虫や爬虫類、魚類だと思いますが、1992年の科学雑誌Scienceの表紙には、世にも珍しい毒鳥ピトフーイが載りました。
毒鳥ピトフーイとは、毒の強さとは、その生態と危険性についてご紹介していきます。
目次
ピトフーイの生態〜毒を持つ世界的に珍しい鳥〜
出典画像:Wikipedia
- 学名:Pitohui(総称)
- 分類:スズメ目カラス上科
- 分布:ニューギニア島
- 体長:23~28cm
ピトフーイは正式な名前ではなく、ニューギニアに生息しているスズメ目の中でも毒性を持つ鳥の総称で、カワリモリモズ、ズグロモリモズ、ムナフモリモズ、サビイロモリモズ、クロモリモズ、カンムリモリモズの6種類が含まれます。
ただし、6種類全てが同じように毒を持つわけではなく、毒性には強弱があり、コウライウグイス科に分類されるカワリモリモズとズグロモリモズの毒性は際立って強く、中でもズグロモリモズは全6種の中で最強の毒性を持っています。
毒鳥ピトフーイは世紀の大発見!?
1990年のニューギニア島のジャングル調査で、ピトフーイに毒性があることが確認されました。
ピトフーイ自体は1830年には発見されていましたが、毒性が確認されたのは発見から160年も経ってからでした。
2年後の1992年には雑誌『Science』の表紙を飾り、一気にピトフーイへと注目が集まりました。
発見の経緯は、まさに偶然の発見でした。
現地では「ピトフーイは食べれない鳥」という話を聞いていた調査団は、調査としてピトフーイを捕獲しました。
その際に、調査団の1人が指に怪我をしてしまいました。その調査員が消毒の意を込めてなのか、指を舐めたところ、猛烈に強い刺激を感じたそうです。
さらにこの調査員はその刺激の原因を特定するためにあれこれ試し、そして触れていたピトフーイの羽を舌の上に乗せて舐めてみたそうです。
すると、くしゃみに始まり、ついで口腔内・鼻腔内の粘膜が痺れはじめ、焼け付くような痛みを感じたといいます。
この件を発端にピトフーイの羽にある毒性について詳しく調査が行われ、毒鳥ピトフーイが誕生したのです。
このように、ピトフーイの毒性の発見はまさに偶然で、仮に調査員が怪我をせず、怪我をしても傷口を舐めず、舐めても詳しく調べようとしなかったなら、ピトフーイの毒性は明らかになっていなかったかもしれません。
幻の毒鳥、鴆(ちん)!?
中国には古来、羽に毒を持つ鳥、「鴆(ちん)」という鳥にまつわる逸話が多くあります。
この鴆は古文書の中だけの存在で、長らく伝説とか幻の鳥と言われていましたが、ピトフーイこそがその実態、またはモデルなのではないかと言われています。
鴆の羽の毒性は大変強く、飛び立った際に舞った羽根に触れても毒に犯されてしまうほどで、暗殺に多く使われたと伝えられています。
また、都に鴆を持ち込んだ男が死刑になる程、鴆の毒性は統治者からも警戒されていました。
ピトフーイと伝承上の毒鳥「鴆」は見た目は全然違いますが、ある意味、「現代の鴆」とも言えるかもしれませんね。
毒鳥ピトフーイ、その毒の強さ
世にも珍しい毒鳥ピトフーイ。その毒性とはどれほどのものなのか、また、なぜ毒鳥が珍しいのかについてご紹介していきます。
ピトフーイの毒とその性質
ピトフーイが持つ毒は「ホモバトラコトキシン」という神経毒で、神経系と運動能力に作用する猛毒です。
この毒に犯されると、神経麻痺と筋収縮を引き起こし、最悪の場合は心室細動や心不全で命を落としてしまいます。
その毒性は強く、フグ毒のテトロドドキシンの4倍とも言われ、類似の毒がヤドクガエルの皮膚からも検出でき、ニューギニア島では毒矢に利用されています。
ただし、ピトフーイの毒は羽や筋肉に蓄えられ、決して敵に向けて注入することができるものではありませんし、触らなければ問題はありません。
また、ピトフーイは体内でホモバトラコトキシンを生成する器官を持ってはおらず、フグ毒などと同じように、餌とする生物の体内にごく微量含まれている毒素を摂取し蓄積していると考えられています。
ニューギニア島のピトフーイはホタルに似た甲虫類を捕食し、その甲虫りの体内にある毒素を羽や筋肉に蓄積しているようです。
さらに、毒鳥と言われていながらも、ピトフーイと言われる鳥の一種のムナフモリモズには毒はありません。
ただし、ピトフーイの中でも毒性の強さはまばらではありますが、最強の毒性を持つズグロモリモズに擬態する個体もいるようなので、ピトフーイには素手で触れない方が安全だと言えます。
毒鳥ピトフーイは生態系の中でも例外!?
毒を持つ生き物ととしてまずイメージするのが虫、ヘビ、カエル、魚だと思います。
なぜ毒を持つ哺乳類や鳥類が極めて珍しいのか、なぜ哺乳類や鳥類などの恒温動物は毒を持ちにくいのか。
それは食物連鎖が関係しています。
主に、毒を持つ生物は恒温動物に捕食される立場の生物に多い傾向があります。
言い換えると、哺乳類や鳥類は食べる側であり、食べられる側が食べられないようにするために体内に毒を持つと言えます。
なので、ピトフーイやカモノハシのように毒を持つ哺乳類や鳥類は大変珍しいのです。
ピトフーイのまとめ
世にも珍しい毒鳥ピトフーイ。触れるだけでも毒の危険性があります。
伝説の毒鳥「鴆(ちん)」の現代バージョンとも言えるピトフーイですが、分類も変わるほど、研究上ホットな生物です。
160年間明らかにならなかった毒性、これからどんな発見があるのか楽しみではありますが、くれぐれも素手では触らないようにしましょう。