アザラシというとぬいぐるみにもあるように、愛くるしく可愛らしいイメージを持たれる方が多いかと思います。
しかしそんなアザラシの仲間にも「海のギャング」「生態系の頂点に君臨」と呼ばれる怖い種の存在があることをご存知でしょうか?
それが今回ご紹介するヒョウアザラシなんです!
体長は3メートルとアザラシの仲間では大型で赤ちゃんでも1メートルを超します。
魚やオキアミ、イカなどを食しますが、それ以外にもペンギンや同族のアザラシなども襲って食べてしまうので驚きですよね。
そんなヒョウアザラシとは、一体どのような生き物なのでしょうか。
ヒョウアザラシ
ヒョウアザラシのその分類は食肉目アザラシ科ヒョウアザラシ属となります。尚、このヒョウアザラシ属に属するのはこのヒョウアザラシのみ一種になります。
その名前にある「ヒョウ」とは斑点模様があるその見た目から肉食獣である豹(ヒョウ)に似ているというのがその由来になります。
しかし、ヒョウアザラシが肉食獣である豹と類似しているのは模様だけではありません。アザラシという種からは想像がつきにくいのですが、本家豹同様に獰猛な肉食獣であるのです。
これらから「海の豹」とも称されます。この他にも「海のギャング」とも称され、本家に負けず劣らずの獰猛さがうかがえますね。
ヒョウアザラシの特徴
「ヒョウアザラシデータ」
- 分 類 食肉目 アザラシ科 ヒョウアザラシ目
- 学 名 Hydrurga leptonyx
- 英 名 Leopard seal
- 体 長 280から330センチメートル程度(雄) 290から360センチメートル程度(雌)
- 体 重 300キログラム 程度(雄) 500キログラム 程度(雌)
- 分布域 南極大陸周辺の海域
- 寿 命 26年程度
- 生息数 およそ50万頭
ヒョウアザラシはその名前の由来の通りに灰色の体毛に黒い斑点と肉食獣豹を想像させる様相をしています。
アザラシの仲間の中では比較的大型種(南極アザラシ族では最大種)で、赤ちゃんの時においても、体長が約100から160センチメートル程度とゴマフアザラシの成獣に近い大きさになります。
また、動物界では珍しく雄よりも雌の方が大きくなるのも大きな特徴ですね。
体形などにおいても他のアザラシと比べるとだいぶ異なるところが存在します。
例えば、一般的なアザラシのイメージですとずんぐりとした体形が想像されますが、ヒョウアザラシのそれは比較的スリムで細長く大きな頭を持っています。
避けたように大きな口と顎、そこには鋭い歯が並びます。またその特徴的な頭の形状から爬虫類のようと形容されることもしばしばあるようですね。
更に特徴的なのはその大きな前ヒレ(前足)で、普通のアザラシは尻尾を使って泳ぎますがヒョウアザラシはこの大きな前ヒレを使うことでとても速いスピードで泳ぐことが出来ます。
一説にはその泳ぐ速さは時速40キロとも言われていますので驚きですよね。
可愛らしいゴマフアザラシと比較するとこのヒョウアザラシは同じアザラシの仲間とはとても思えません。
ヒョウアザラシの生態
ヒョウアザラシの生息地は南極大陸周辺の海域でとても冷たい海で暮らしていますが、稀にオーストラリアやニュージーランド、南アフリカなどでもその姿を確認出来るようです。
基本的に群れは作らず単独での生活を行うようです。
その食性は肉食(動物食)で、南極オキアミを主には食しますが、イカや魚、ペンギンや海鳥、更には同族の鰭脚類なども襲って食することもあります。
鰭脚類においては、カニクイアザラシの赤ちゃんが主な対象となりますが、それ以外にも同じ海域に生息するアザラシやオットセイも襲って食することがあります。
これらかも分かるように南極大陸周辺の海域に限って言えば、ヒョウアザラシは生態系の頂点に君臨し、「海のギャング」と恐れられているのです。
ヒョウアザラシは、年に一度(10月から11月)一頭の子供を産み、1月程度の授乳期間を経て、雄は4年半雌は4年で成獣となります。
その寿命はおよそ26年で、生息数は50万頭とされています。
実のところ、ヒョウアザラシの生態はその他の南極に生息する動物たち同様に謎な部分も多々あり、まだ解明されていないことがたくさんあるようです。
南極では最も怖いとされる最強捕食者!
前述のようにヒョウアザラシは南極大陸周辺の海域においては生態系の頂点に君臨し「海のギャング」と恐れられています。
基本的には単独で生活するヒョウアザラシですので、狩りも勿論単独で行います。
その手法も独特で、岩場の陰などに潜み待ち伏せをして、あらわれた獲物に襲い掛かるというスタイルが良く見られます。
力強い顎と鋭い歯で噛みつき、獲物を振り回して引きちぎって食する様はまさに海のギャングと呼ぶにふさわしい様相ですね。
しかし、実はこれ振り回して引きちぎるのは、獲物を丸呑みすることが出来ないからとも言われており、生きていく術として身に着けた手法なのでしょう。
その他にも南極と言う生息地から多くのペンギンも被害に遭うようで、氷との境目近くの海中に潜み、飛び込んできたペンギンを襲うという姿が何度もカメラにとらえられています。
また海中からゆっくりと近づき水面に浮かぶ海鳥の捕食も行います。
このように待ち伏せをして突如襲い掛かるスタイルの狩りが得意のようです。
しかし実際には泳ぐスピードもかなりの速さを誇りますので、まさにこの海のギャングヒョウアザラシは最強の捕食者と言うことになりますね。
天敵はシャチ?
このような恐ろしいヒョウアザラシに天敵となる動物はいるのでしょうか?
生息域に限れば最強の捕食者としてその生態系の頂点に君臨するヒョウアザラシですが、反対の捕食される側に回ることも実はあるようです。
その相手と言うのはシャチやサメになります。また最大級のアザラシであるゾウアザラシによって殺されてしまったという報告も過去にはあるようですね。
しかし、シャチやサメは南極大陸周辺に生息しているというよりはもっと広範囲になり、シャチやサメにヒョウアザラシが遭遇する機会はあまりないようです。
ゾウアザラシにしても縄張り争いなどはあるかも知れませんが、捕食する又はされるという関係性ではないようです。
そう考えますと、ヒョウアザラシが生息する地域においては天敵と言う天敵はいないと考えるのが自然かも知れません。
人間を襲うこともある
ここまでヒョウアザラシが恐ろしい生態を持つことを説明して参りましたが、実は私達人間もこのヒョウアザラシにより怖い事故の被害にあっているのです。
【事例1 1985年】
スコットランドの探検家が氷の上を歩いていると、足元の氷が突如砕け散りそこから一頭の巨大なヒョウアザラシが出現し、この探検家の足に大きな顎で噛みつき海中へ引きずり込もうとしました。
この時は、一緒にいた仲間たちの助けもあり事なきを得ましたが、仮に一人であったらと思うとぞっとしてしまいます。
【事例2 1995年】
こちらも氷の上での出来事で、氷の上を歩いていると突如ヒョウアザラシがあらわれ襲い掛かって来たという、必死になって逃げること100メートル、何とか逃げ切ることに成功したようですが執拗に追いかけるその様には恐怖を覚えたことでしょう。
【事例3 2003年】
こちらは確認されている死亡事故です。
イギリスの海洋学者が水中に潜っている際に噛みつかれ引きずり回されてしまったようです。
仲間が引き揚げ必死の蘇生活動も虚しく遂には亡くなってしまったということです。
狩りの対象として襲われたのかは不明ですが、ヒョウアザラシによる事故で初めて人命が失われてしまった事故のようです。
このように私達人間もこのヒョウアザラシによって恐ろしい思いをしているんですが、一方でダイバーを仲間と勘違いしたのか、ペンギンをご馳走してくれたという心優しい一面もあるようです。
確かに謎も多いですよね。
まとめ
今回のヒョウアザラシを知ることによって、私達が思い描いていた愛くるしいアザラシのイメージが少なからず揺らいでしまったかも知れませんね。
何といっても人をも襲うことがある海のギャング、最強の捕食者なんですから。
でも冷静に考えれば、このヒョウアザラシがいるおかげで南極大陸周辺の海域における生態系が保たれているんですよね。
もしこのヒョウアザラシが絶滅したら、南極の生態系は音を立てて崩れていくことでしょう。
恐ろしいとか怖いとか忌み嫌われてしまっても、実際には自然界で大切な役目を背負っているんですよね。
そう考えるとこのヒョウアザラシもいささか貧乏くじを引いてしまった感じもしますが、実はとても大切な存在と思えてきます。