今回ご紹介させていただくのは「ディンゴ」という犬、野犬です。
野犬といっても、ただ単に犬ということではなく犬同様にタイリクオオカミから分かれた亜種です。
野犬という言葉は、日本の野良犬とは異なり広義の意味で使われています。
もともとは東南アジアにいたものが人間の手によりオーストラリアに連れて来られて、今では「オーストラリアに生息する野犬のディンゴ」という方がメジャーかもしれません。
以前は人間の傍で家畜やペットのように暮らしていたディンゴは、長い歴史の過程で野生化してしまいました。
その間に獰猛な性格となり現在では人間にも被害を及ぼす危険な野犬と化してしまったのです。
今回はそんなディンゴについてご紹介をしてまいります。
ディンゴ
「ディンゴ基本 データ」
- 分 類 食肉目 イヌ科 イヌ属 タイリクオオカミ(種) ディンゴ(亜種)
- 学 名 Canis lupus dingo
- 和 名 ディンゴ
- 英 名 Dingo
- 体 長 100センチメートル程度
- 体 重 15キログラム程度
- 尾 長 30センチメートル程度
- 分布域 オーストラリア全土(タスマニア島を除く)
- 生息環境 砂漠、森林、草原地帯など
ディンゴの特徴
上述のようにディンゴの体長は100センチメートル程度、体重は15キログラム程度になります。
中型犬から大型犬の部類に入るという大きさ、体色としては、金色や褐色(赤味がかった黄色)になります。
体つきは非常にスマートなのですが、筋肉質で意外にがっちりとしています。
立ち耳が特徴ですので、見た目には日本犬である柴犬と非常によく似ています。
勿論、柴犬に比べたら野性味たっぷりの精悍さは強いですね。
柴犬というか犬とディンゴが似ているのは至極当然で、どちらもタイリクオオカミの亜種となります。
人間がタイリクオオカミを家畜やペットとして飼いならしディンゴとイヌへと別れていったのですね。
ディンゴの性格
もともとは人間の傍にいたディンゴは野生化をしたことで、非常に獰猛な性格へと変わってしまいました。
かつて生活を共にしていた人間やそして家畜が今ではディンゴに襲われるようになってしまったのです。
群れの優位な立場となる雌は、下位の雌に生まれた子供を殺してしまうこともあるようですね。
野生のディンゴはもはや子供の頃から育てない限り、人間に懐くことは無いようです。
長い年月を経て、人間とは敵対するというDNAにすり替わってしまったようですね。
ディンゴの生態
ディンゴはタスマニア島を除くオーストラリア全土に生息をしております。
これはオーストラリア大陸からタスマニア島が離れた後になってディンゴがオーストラリアに来たためと考えられています。
もともとは東南アジアに生息していたディンゴの祖先筋が人間によりオーストラリアに連れて来られたのです。
現在東南アジアに生息する野犬も広義な意味ではディンゴとされています。
東南アジアに生息するものがディンゴの進化前の祖先的な種ということのようです。
生息環境は、砂漠や森林に草原地帯と広い範囲で、適応能力の高さを証明しておりますね。
もともとは先住民族のアボリジニなどに飼われていましたが、逃げ出したりした個体が野生化してオーストラリア全土に生息域が広がったのです。
ディンゴは社会性が強い動物で雌をリーダーとした10頭程度の群れを作り縄張りの中で暮らしています。
飼い犬のように吠えることはなく、遠吠えや鼻音をコミュニケーション手段として使います。
ディンゴは肉食性の強い雑食性で、カンガルーやワラビー、小動物や、家畜となる羊や牛などを捕食します。これ以外には果実や植物などを食べることもあります。
狩りは、単体でも行いますが、ほとんどの場合には群れで行います。
東南アジアに生息するディンゴは、人間の残飯などもあさってたべることもあるようです。
繁殖は、年に一度で、一度の出産で5匹ほどの子供を産みます。
子供は生後6から8カ月で親離れをしていきます。
ディンゴが及ぼした生態系への影響
ディンゴの登場はオーストラリアにおいては非常に強力な影響を及ぼすことになりました。
それまでは、オーストラリアの生態系の上位にはフクロオオカミという種が位置していたのです。
しかし、ディンゴが野生化したことで、食性を同じにするフクロオオカミと競合することになりました。
その結果、フクロオオカミは生存競争に敗れ絶滅へと向かってしまったのです。
唯一ディンゴがあらわれなかったタスマニア島では生き残ったのですが、残念ながらこちらは人間の手で絶滅へと向かってしまいました。
因みに現在タスマニア島に生息しているタスマニアデビルも、以前はオーストラリア全土に生息していたことが発見された化石から分かっています。
これもディンゴが原因で絶滅へ向かったと考えられているのです。
ディンゴによりフクロオオカミやタスマニア島以外のタスメニアデビルは絶滅してしまったのです。
現在のオーストラリアでは、ディンゴが生態系の頂点となり自然環境を安定させているとされるのです。
ディンゴは危険な野犬
ディンゴは狩りの対象として野生動物以外にも家畜である羊や牛にもその牙を向けます。
時には、それは私達に人間に向けられることもあるのです。
最も有名なものは、当初は母親が犯人とされていた女児殺害事件ですが、30年という長い年月を経てそれがディンゴによるものだということが判明したものがあります。
これは30年も犯人とされた母親のことがセンセーショナルに取り上げられていましたが、そもそもの原因となったのはディンゴが女児を襲って殺害してしまったことになります。
また、2001年には、男の子が2頭のディンゴに襲われ死亡するという事件もフレーザー島で起こっています。
これら以外にも、ディンゴが人間を襲い死亡するという事件は過去10年でも6件以上の報告が確認されています。
ディンゴと人間
数千年前にディンゴは人間の手によってオーストラリアに持ち込まれました。
その後にアボリジニの手によって飼いならされ始めたのです。
この時は残飯処理や寒い時の防寒に抱いて寝るなど、非常に人間にとってディンゴは友好かつ有益な存在だったのです。
その後にディンゴが野生化をしていき、今の獰猛な野犬と化してしまったのです。
様々な呼称
ディンゴにはこの一般的に呼ばれるディンゴ以外にも様々な呼称があります。
現地では「ワイルド・ドッグ」と呼ばれることも多々あり、他にも「オーストラリア犬」や「オーストラリアオオカミ」などと呼ばれることもあります。
もともとはアボリジニが「Tingo」と呼んでいたことから「ディンゴ」となったのです。実は、部族によって様々な呼び方をされていて細かく分類すると14種類以上の呼び方もあるようです。
ディンゴフェンス
前述のように、野生化し獰猛となってしまったディンゴは家畜や人間をも襲う害獣となってしまいました。
これらディンゴからの被害を防ぐために、オーストラリア南東部ではディンゴ除けのディンゴフェンスと呼ばれるフェンスが設置されています。
その長さは全長5000キロメートル以上と言うのですから凄いですよね。
※5641キロメートルや5320キロメートルなど様々な数値があります。
このディンゴフェンスは閉め忘れた人間には罰金刑、越えて侵入したディンゴは射殺という非常に厳しいものになるようです。
ペットとしてのディンゴ
現地オーストラリアでは野生であるディンゴの飼育は禁止されています。
危険動物ですから、当然と言えば当然ですが、中には秘密裏に飼育する方もいるようですね。
しかし、ここにも抜け穴がありまして、ディンゴは犬と同じタイリクオオカミの亜種になります。
これにより犬との交配が可能なのです。
ディンゴと犬の交配種は既に存在していて「ディンゴ・ハイブリッド」がそれにあたります。
これをペットとして飼育する人もいるようです。野性味あふれる肉体に犬の順応性をもつことから人気も高いようです。
絶滅危惧
さて、現在オーストラリアに棲息するディンゴは昔よりも増えているようです。しかし、絶滅が危惧されているのです。
どういう事なのでしょうか?
実は前項でご紹介した交配種「ディンゴ・ハイブリッド」が原因なのです。
野生でもこのディンゴ・ハイブリッドが非常に増えてきていて、現在ではディンゴの3分の1に犬の血が混じっているとされているのです。
またそれ以上の数値をあらわす説もあります。
とにかく、純血のディンゴがすさまじい勢いで減少をしてしまっています。
現在では純血種は保護施設で隔離するなどの対策も講じられています。
混血種が純血種の存在を脅かす・・・純血種のディンゴの絶滅の危惧も理解できますね。
まとめ
今回、オーストラリアに生息する野犬「ディンゴ」について色々とご紹介をしてまいりました。
人間の手により持ち込まれ、野生化して害獣扱いされ、今では絶滅も危惧されている。
何とも心が痛いところもあります。
しかし、現地ではそうは言っていられないですね。
人間や家畜が襲われたり、固有種が絶滅に導かれたりと、大きな負の影響も出ているのですから。
そのような中でディンゴフェンスはディンゴと人間の共生においては最善の策かもしれません。
皆様もオーストラリアに行く際には、ディンゴにはくれぐれもご注意くださいね。