「犬の祖先は狼である。」このことは承知の事実として誰もがそう理解して来ました。
勿論、全てのことに当てはまりますが、文献が残されていない太古の昔のことはある程度の根拠を基に推測された憶測であります。
この「犬の祖先は狼である。」という説も信憑性の高いあくまでも仮説でありましたが、1990年以降になって急速に進化を遂げたDNAなどの分子統計学による裏付けからその信憑性は更に高くなったと言えます。
今回はこの狼と犬の違いはどのようなものなのか、もし仮に戦えばどちらが強いのかなどを考えてみたいと思います。
目次
「犬の祖先は狼である。」はかなり信憑性が高い!
昔より言われ続けて来た「犬の祖先は狼である。」はこの近年の分子統計学の発展により、かなり信憑性が高いことが分けってきました。
DNA検査によればかなり近い数値で狼と犬の関係が明らかになっているようです。
犬との関係性が非常に近い「ハイイロオオカミ」が犬の祖先とされる
研究の結果、DNA調査によって犬と非常に近い「ハイイロオオカミ」がその祖先筋にあたるという報告をしています。
ハイイロオオカミはタイリクオオカミとも称されますが、様々な亜種が存在し世界中に分布しています。
このうちの一亜種が犬(イエイヌ)であるとするのが最近の見方になって来ています。
ある生息地域で、人間と対峙する関係であった狼がその人間と共生することで犬化してそれが犬として世界中に広まって行ったと言われています。
これは考古学的見地から見ると14000年前から15000年前の出来事のようです。
共生から人間依存になったのが犬
この共生により、犬は人間の役に立ちながら、人間に依存して生きるようになりました。
人間に飼いならされるので、人間に対して忠実になったのです。
一方の狼は、そのまま自然界で独自で狩りをして生き続けて来ました。
今でも、家畜を襲ったりするなど一部では人間との敵対関係は続いています。
この人間との共生の有無の生き方に大きな違いがあらわれますね。
更に、この生き方の違いが後述する狼と犬の様々な違いを生み出すことになるのです。
狼に近いとされる犬種
犬の中で狼に近いとされるのはスピッツ系と呼ばれる原始的な犬種とされています。
ここで言うスピッツとは犬種のスピッツでは無く、「尖った」という意味で使われるものです。
これには、秋田犬や柴犬など日本犬や「シベリアンハスキー」「アラスカンマラミュート」などが属しています。
何となく、見た目的にはイメージし易いかも知れませんね。
最も狼に近いのが柴犬
アメリカの大学が発表した研究報告によると、犬の中で最も狼に近い遺伝子を持つのが日本の「柴犬」になるようです。
これは、犬の遺伝子の分類の内大きな4つの項目があるのですが、その中で「WOLFLIKE(ウルフライク)」と言うものがあります。
これは、古くから存在していて狼に限りなく近いDNAを持つことを意味します。
この「WOLFLIKE(ウルフライク)」を柴犬が最も多く保有していることが分かったようなんです。
その次に近いのが「チャウチャウ」そして「秋田犬」という順番で続くようですね。
見た目から「シベリアンハスキー」「アラスカンマラミュート」などが最も近いように感じられますが、我々に馴染みのある柴犬が一番近いとは少々驚かせれてしまいますね。
体格から考える狼と犬の違い
犬種によって異なりますが、たいていの場合体格を比較してみると狼の方が犬よりも一回り以上大きくがっしりした体形をしています。
狼の特徴
体格との比例以上に頭や耳、首、足、尻尾など身体の各部が太く大きくしっかりしています。
狼によっても個体差が生じますが、この体格の差は明らかに異なりますね。
犬の特徴
ペットや愛玩動物としての飼育も多いことから、筋肉や骨格が野生で暮らす狼に比べてがっしりしていないものが多いです。
小型犬にいたっては狼の原型をあらわさないほどに華奢ですし、大型犬も闘犬以外は筋肉質ではありませんね。
性格から考える狼と犬の違い
犬は人間に依存して生活をしているため、人間に対しては友好的で人懐っこいですね。
一方野生の狼は、群れで生活をするので狼内での社会性の形成はされていますが、人間との友好関係はなかなか難しい一面もあります。
この人懐っこい性格も狼と犬の大きな違いになります。
狼の特徴
骨格や体形などから厳ついイメージが見受けられます。
子供の頃から飼い始めない限り、人に対して懐くことは難しいでしょう。
犬の特徴
ほとんどの犬種が躾次第ですが飼い主には従順になります。
また闘犬(ガードドッグ)以外は、そこまで闘争本能は高くないようです。
狼と犬の違い「体形」
狼と犬の体形による大きな違いはその生活環境や生態の違いによりあらわれてきます。
犬は人間と共生し人間に依存することで生活をするようになりました。
一方の狼は、変わらず野生下で、自分達で狩りを行い生活をしています。
これらのことから必然的に狼は体形や身体の部位が大きく逞しく野生的であります。
頭部分の違い
狼は、自然界で生き抜いていくには確実に獲物を仕留めること硬いものも噛み砕く事が出来ることが必要になります。
その為には狩りに適した身体機能が必要になります。
まずは、獲物を捕らえるために歯が大きくて丈夫です。この大きく丈夫な歯を使うためにパワーを必要とすることから顎も大きくなります。
骨を噛み砕くなど歯の丈夫さに加え強力な顎の力も必要になります。
これらから狼の頭部はイヌに比べて大きくなります。
狼には顎の筋肉が発達し頬骨が高く位地するので、犬よりも眼が釣り上がったように見えるのも特徴的ですね。実は狼から感じる野性味や精悍さはこの目によるところが大きいようです。
また、頭から鼻先までがほとんど直線になっているのが狼の特徴でもあります。
一方の犬の場合には、闘犬などの種類を除いて、狩りの必要もなくまた人間から与えられて食事をするので、歯も顎もそれほど巨大ではありません。
また、犬の特徴は目の周りの骨がくぼんだ形状をしています。頭蓋骨の形状の違いは大きな違いとしてあげられます。
足部分の違い
犬は肉球が丸みを帯びて、足の裏も丸に近い形状をしています。
一方の狼は、肉球および足の裏全体が楕円形の形状になります。
足跡を見ると違いは一目瞭然なのですが、狼の場合に狩りで長距離を速く走るのに適した形状となっているようです。
勿論、大きさも違います。オオカミの足は犬の足に比べて大きくなっていますね。
また、前足も狼は犬に比べるとやや後方に位置しています。これにより俊敏な動きが可能になっているようです。
尻尾の違い
尻尾も狼の方が大きく垂れ下がった形状をしています。犬は種類によって様々ですが、巻尾等狼には無い特徴的な尻尾を持つ種もあります。
狼と犬の違い「その他」
前項の身体的な違い以外にも、狼と犬とでは生活環境や生態から様々な相違点があります。
性格の違い
こちらも前述で少し触れましたが、犬は人間と共生依存して生きてきました。
一方狼は、野生そのままに警戒心が強く小さい時から育てない限り人に懐くことは無いようです。しかし、懐いた場合でも目を合わせてのコミュニケーションとはいかない場合が多いようですね。
鳴き声の違い
狼と犬では鳴き声も異なります。
よく犬に見かける「ワン」と鳴くような行動は狼ではあまり見かけることが出来ません。実際には吠えることもあるようですが、まだ明確に解明はされていないようです。
しかし狼は群れの仲間とのコミュニケーションとして遠吠えを行います。これは犬にもその遺伝子があるようで、救急車のサイレンなどに反応して合わせるように遠吠えの様になく姿を見ることもありますね。
食性の違い
狼は動物食の肉食性ですが、犬は人間との暮らしの中で雑食性へと変化をして来ました。
消化機能としては、雑食性の犬の方がはるかに高いものを持つようです。
繁殖の違い
繁殖期は狼は年に1回しかないのですが、犬は年に2回という違いがあります。
出産時の子供の数が、犬の場合に平均6頭から10頭程度ですが、狼は4頭から6頭程度と半分くらいになります。
これは、野生下での子育て事情が関係していると考えられます。
また、子供の成熟期間も犬が1年程度で成犬となるのに対して狼は2年程と倍の期間を必要とします。これは、犬には最も大変な狩りを覚えなくても良いことも関係するのかも知れませんね。
狼と犬どちらが強いのか?
この問題に対する答えは犬の犬種、狼の個体差などによっても異なるでしょうから、人によって様々だと思います。
ただ、体格やパワーに野生下で暮らす生命力などを考えますと狼の優位は動かないと考えられます。
犬の中で最強とされる「カンガール・ドッグ」や「ロットワイラー」、「ピットブル」などでは良い戦いになると思いますが、1対1の戦いになると勝てないような気がします。
しかし、それでも何回か戦えばその内1回くらいは勝機を見出せるかも知れませんね。
また「アイリッシュウルフハウンド」などは、単体で狼を殺したことがあるともされますが、現存種ではなく一度絶滅の危機に瀕して交配で復活させる前のものの話のようです。
ただし、その話の信憑性も定かではありません。
総合的に判断して、いかなる闘犬を用いても犬が狼に勝利するには並大抵ではないと考えられます。
狼と犬の交雑種「ウルフドッグ」
犬は狼を祖先とするほどに近い一亜種になります。
そうなると必然的に交雑種の誕生は可能であり、既に「ウルフドッグ」という犬種が存在しているのです。
これは狼を飼いたいという愛好家の希望を叶えるために作られたと考えられ、少し複雑な気持ちもしてしまいますね。
勿論、犬であり特定動物ではないので飼育は可能ですが、よほど慣れた人でないと飼育は難しいようです。
現在このウルフドッグにおいては、ジャパンケネルクラブでは次の2種を純血種として認めています。
- サーロス・ウルフホンド
- チェコスロバキアン・ウルフドッグ
いずれにしても安易な飼育はおすすめできません。
狼は犬にはならない
多くの狼の研究者や犬の研究者を取材してきた記者が興味深い報告をしていました。
狼・犬それぞれの研究者が共通に「狼は犬にはならない」という趣旨の発言をしているというのです。
狼と犬は非常に近い種類であるのは事実ですが、これまでにご紹介したように多くの違いがあるのもまた事実なんです。
15000年程前に、今では絶滅してしまった狼の1種が犬へと変化しました。
これは故意に行われたものではなく、比較的友好的な狼が人間から残り物を貰い始め、人間と接する時間を増やしながら進化していったというのがたいていの学者の見解になります。
これらの個体が世代を重ねて人間と生活する年月を増やすことで狼の獰猛さが薄れていき、今のフレンドリーな関係を作り上げたものが犬となったというのです。
これらは長い年月を重ねて人間は怖くない友達であるとするDNAが犬には継がれてきている、野生の狼にそれを行おうとしても、人間は敵であるとするDNAがある以上、いつその本性があらわれるかわからない様です。
15000万年と言う長い年月の歴史を、今いる狼に臨むのが無理だともされています。
異なる種としてすでに確立されているのだから、それは当然なのかも知れません。
このことから、今いる狼は犬にはなれないとしているのですね。
まとめ
今回、狼と犬の違いについてご紹介してまいりました。
狼と犬は、非常に近い近種・亜種であり、似ているのは当然なのですが、また明確な違いも色々とあるようですね。
しかし、もっとも大きな違いは犬には人間の手が入っていることではないでしょうか?
もともとは自然な形で友好関係を築いていた人間と犬ですが、いつからか人間が都合の良いように犬を改良していってしまったのです。
もともと狼も39種(現存33種)と種は多いのですが、犬の種類は国際畜犬連盟が公認しているもので340種以上もあり、未公認を合わせると1000種近い種類が存在するようです。
このうちのほとんどが人間が手を加え改良されたものです。
ガードドッグとして狩猟犬として、闘犬としてそして愛玩犬として様々な改良が加えられて今があるのです。
犬同士でも様々な違いがあるのに、狼と犬で違いがあるのは当然ですね。
チワワやトイプードルが狼と同じとはその姿からは想像も出来ませんから。
亜種かも知れませんが、全くの別種でもあるわけですね。
例え、犬が人間の手によって改良を加えられて誕生したとしても、今幸せと感じてくれていることを願うばかりです。