海のユニコーンとも呼ばれるクジラの仲間「イッカク」をご存知でしょうか?
ユニコーンと呼ばれるのは頭から一本の長い角が生えているその姿からなのですが、準絶滅危惧種でもあり北極圏でしかその姿を見ることが出来ないため、幻のクジラとも称されているのです。
幻のクジラの通り、生態などなかなか謎が多い動物なのです。
「角は何のため?」「仲間同士刺さらないの?」「どこの水族館で見られるの?」
などイッカクの素朴な疑問や特徴に寿命など分かる範囲ですがご紹介してまいります」。
目次
イッカク
「イッカクの基本データ」
- 分 類 偶蹄目(鯨偶蹄目) イッカク科 イッカク属
- 学 名 Monodon monoceros
- 和 名 イッカク
- 英 名 Narwhal Unicorn whale
- 体 長 雄4.7メートル程度 雌4メートル程度(角は除く)
- 体 重 雄1600キログラム程度 雌900キログラム程度
- 寿 命 最長で50年程度
- 分布域 北極海域
イッカクの特徴
イッカクは偶蹄目(鯨偶蹄目)イッカク科イッカク属に属する哺乳類歯クジラの仲間で、このイッカクのみがイッカク属になります。
体長は雄で4.7メートル、雌で4.2メートル、体重は雄で1600キログラム程度、雌で900キログラム程度になります。
身体の特徴としては、全体的に青白い体には黒っぽい斑紋があります。
この斑紋は年齢を重ねるごとに白くなり、最終的には真っ白くなり、近種のシロイルカとの区別がつきにくくなるようですね。
背鰭はなく背中にわずかに膨らみがある程度です。また胸鰭も短く先端が反り返るのが特徴的です。背鰭が無いのは氷に覆われる北極海に順応したためとも言われています。
また、尾鰭はクジラ特有のフィンのような三角尾鰭では無く、扇やイチョウの葉のように丸い形状をしていて中心の切れ込みがはっきりとしています。
そして最も特徴的なのが「イッカク」の名前の由来でもある一本の非常に長い角です。後述で詳細はお伝えしますが、実際には角では無く、歯であることから牙と言うのが正解なんですね。
なお、この牙には様々な憶測が語られていますが、真実はまだ明確でないことも多いようです。
イッカクの生態
イッカクは北極海域やその周辺河川でその姿を見ることが出来ます。
多くは1頭の雄をリーダーとする10頭程度の群れを形成して生活をしているようです。
時にこの群れ同士がくっつき非常に大きな群れを形成することもあるようです。その数は数百、数千頭と言われるのですから壮大な光景になりますよね。
食性は魚を主とした肉食性で主にはタラなどの魚類が捕食対象になりますが、地域によってはイカを主な捕食対象とする種もいるようです。
哺乳類でありますが、潜水は非常に得意なようで、深さでは1164メートル、時間では25分間が記録としてあるようですね。
イッカクはクジラの仲間
前述もしておりますが、イッカクは偶蹄目(鯨偶蹄目)イッカク科イッカク属でクジラの仲間になります。
クジラにはヒゲクジラと歯クジラに分かれますが、イッカクはイルカなどと同じ歯クジラになります。
近種はシロイルカ(ベルーガ)
イッカク属はこのイッカクのみになりますが、その上の層のイッカク科に目を向けると「イッカク属とシロイルカ属」となります。
つまりイッカクはシロイルカと非常に近い種となるのです。ごく稀に交雑することもあるようですね。
歯の無い歯クジラと思いきや
イッカクもシロイルカも歯クジラの仲間なのですが、シロイルカの歯は非常に小さく鋭利でもありません。イッカクに至っては歯そのものが無いに等しいのです。
この為餌は丸呑みすることになります。
しかし、実はイッカクの最大の特徴である角、実はこれ歯なんですね。つまり正確には角ではなく牙となるのです。
クジラとイルカの違い
歯クジラとイルカは生物学的には同じで、その大きさで分けられています。
4メートル以上の種がクジラで、それより小さい種がイルカとなります。
この為イッカクはクジラの仲間で、シロイルカも正確にはクジラとなります。
イッカクの角
さて、前述のようのこのイッカクの最大の特徴となるのは長く鋭い角なのですが、実は角では無く牙と言うことになるのですね。
イッカクには上の犬歯が2本あり、そのうち何故か左側の犬歯が上あごを突き破って伸びてくるのです。
これは雄に見られる特徴で長いものでは3メートル重さは10キログラム程度にも達するのです。体長が4.7メートルと考えるとこの長さは驚いてしまいますね。
この角は、折れてしまうと生え変わりはありません。しかも中は空洞の為意外にもろいようです。
形状は細長くシュッとした角ですが、よくよく見ると左巻きの螺旋状の溝が刻まれています。
角(牙)には例外もある
イッカクの角は雄の特徴で上の2本ある犬歯の内左側にある1本が皮膚を破って突き破ってきたものなのですが、稀に例外的な個体があらわれるようです。
実は雌にもこの角が生えている個体が確認されているのです。長さは雄の3メートルには到底及ばない1メートル程度ですが、確率的には15パーセント程度とそこそこの確率になりますね。
また、角が2本生える個体も確認されています。こちらは、雄で500頭に1頭の割合、雌でも過去に一例だけこの2本の角を持つイッカクが確認されているのです。
イッカク自体が幻のクジラなんですから、2本の角はまさに幻かもしれません。
イッカクの角の持つ役割
何故この一角には角が生えるのか、角の役割は何なのかということはこれまで様々な議論がされて来ているのです。
しかし、中には真意が定かでないものも多くあり、現在では次の3つが有力な説としてあがっています。
- 雄同士の優劣を決める
- 周辺状況の確認
- 狩りの時の武器
雄同士の優劣は、戦うのでは無く長さを競って優劣を決めるようです。
角を海面から突き出し雄同士が優劣を決める様子はよく見られるので、ライオンの鬣やクジャクの羽のような意味合いは確かにあるようです。
周辺状況の確認は、海水や空気の状況などをこの角を使って確認するというものです。
角には神経系があることは研究で明らかになっています。
これを使って周辺の環境状況を確認し餌となる魚の有無や天敵の存在を確かめているという説ですが、これは雌に角がないことから疑問の声もあります。
ただ、雄がリーダーとなり群れで行動することから、この説も正しいのでは?ともされますが、真意は定かではありません。
狩りの時の武器は、これまでは信憑性に欠けるとされてきました。
しかし、この角で魚を叩き気絶させ捕食する姿が映像の納められたことから事実として認められたのです。
ただ、映像を見る感じでは確かに叩いて捕えるのですが、「鋭い角なのに叩くのかい…。」と突っ込みたくなってしまいます。
仲間に刺さらないのか?
これだけの長い角ですので、一緒に暮らす仲間に間違って刺さってしまうなんてことはないのか?
この疑問も多く上がっているようですが、これまでにそのような事例の報告は無いようです。
基本的には雄がリーダーとなり群れを引っ張る構図ですので、「群れの中で角を持つのは1頭という形態になることからもその心配はない。」というのが今のところは信憑性が高いですね。
イッカクの天敵は?
イッカクの天敵となるのは、シャチにホッキョクグマが代表されます。稀にセイウチに襲われることもあるようですね。
そして最もイッカクにとって天敵となるのは私達人間かも知れません。
エスキモー系諸民族であるイヌイットの人達はこのイッカクを昔より狩ることで生活をして来た歴史があります。
食用は勿論、表皮や角も狩りの目的とされていますね。
イッカクは絶滅危惧種!?
イッカクは現在ではワシントン条約によって捕獲と取引が規制対象となっています。
角(牙)目的の乱獲がなされ生息数は激減し今では50000頭程度とされます。準絶滅危惧種指定とされ、これが続けば絶滅危惧種となるのは明らかですね。
今はイヌイットのみ狩りが認められていますが、捕鯨反対の声は世界中から上がっているのでイヌイットも例外ではなくなるかも知れません。
イッカクの見られる水族館は?
さて、このように神秘的なイッカクともなると是非一度実際に見てみたいと思いますよね。
「いざ、見に行こう!イッカクを!」
でも、ダメなんです。現在は日本はおろか世界中の水族館を探してもイッカクを飼育しているところはないのです。
その理由としては「飼育が非常に難しい為」とされています。
北極海域という生息環境の再現が困難であることと海外では飼育を試みましたが、いずれも短期間で死亡したようです。
また2017年に発表されたイッカクの研究調査では、イッカクは人間に対するストレスが激しく脳損傷を引き起こす恐れがあるということです。
飼育にはもともと向いていないのかも知れませんね。
また、飼育されていない理由にワシントン条約の条例によるという情報もあるようですが、これは今のところ信憑性に欠けているようです。
いずれにしてもイッカクは水族館では見ることは出来ないので、北極海域まで行かなければ生で見ることは出来ないようです。
飼育事例
1970年に飼育を試みたのを最後に終わっているようです。その時はニューヨーク水族館でタンクに移して1月で死亡したとされています。。
それ以前にも何度か試みはありましたが、いずれも数カ月と持たずに全て死亡しているようですね。
自然下では50年とされる寿命で、最大で100年というのもあるようですが人間の範囲内では非常に短命となってしまうようです。
前述の研究発表の正当性を伺わせてくれます。
まとめ
今回、幻のクジラ「イッカク」についてご紹介をしてまいりました。
そのいで立ちから「海のユニコーン」とも呼ばれるほどに神秘的な動物なのです。
現に19世紀まではUMAとして扱われていたのですから、正に幻のクジラなんですね。
まだまだ謎も多い動物ですが、様々な研究が進められて今では、生態などある程度解明されてきました。
もう少し研究が進めばより多くの事が分かってくるかも知れません。
実物を見たくても水族館での飼育成功例が無いというのも神秘的な動物としてますます興味を掻き立てられてしまいます。
一日も早く研究が進み、イッカクの保護による生息数の増加と水族館で生のイッカクが見られることに期待したいですね。